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Side T

Side T  これ多分地雷だろうな。分かってたけど言ってしまった。 「そういうくだらない挑発がさ、いつか来ると思ってた」  廊下から丸見えですよ先輩。染サンが僕の胸座を掴んで殴って、倒れたところで跨ってまた殴る。やっぱ怒ってるんじゃないですか、余裕なフリして。僕は1発だったけど染サンは4発。ルール違反ですって。でも僕は不意打ち、染サンは避けてね?って言ったもんな、僕の方がルール違反かな。 「やめてよね。ただの幼馴染に決まってるでしょ」  倒れたままの僕の胸座を掴み直してもう一発。この人も暴力に訴えるタイプなんだな。まぁ挑発したの僕だけど。 「観月が困るようなこと言わないでくれる」  怒っている様子はないいつもの、雄としての美しさを持った顔面。顔と顔が近付いて、突き飛ばすみたいに乱暴に放される。上体を起こすと染サンの手に血が付いているのが見えて、鼻の辺りの違和感にやっと気がいった。鼻血出てたのか。 「最悪だよ、ったく」  最悪なのはこっちも同じですよ。染サンは僕の上から退いて、よろよろ歩きながら室内にあった埃のかぶったティッシュ箱を僕に投げた。そしてまたよろよろと歩いて適当なとこで呻きながら尻餅をつく。 「何のために朝比奈が付き合ってるのかって話、やっぱ教えるわ。ほんっと冷生ちゃん余計なコトしかしないよね」 「知らないんじゃなかったんですか」  すっごい嫌そうな目で見られた。ティッシュで鼻を拭うとやっぱり血が出ていた。 「また俺に突っ掛られても困るんだよ」  僕を殴った手をストレッチするみたいに振って、染サンは僕を見なかった。 「多分だけど、お前が俺殴ったの、気に病んでるみたい。観月はそう言ってたよ。お前ほんとバカ。そこまで察しろとは言わないけどさ」  笑みがなくなった染サンには眉間の皺が残っている。 「蜂の巣突っつくマネするなよ。元からあいつらはそれなりの関係だったの知ってんだろ」  染サンは制服から生徒手帳を取り出してぱらぱら捲ってる。何してんの、この人。 「ったくホント最悪。謹慎かな、停学かな。退学は嫌だな」 「え」  この人、何言ってるの。 「不肖の息子でごめんな、マミー」  生徒手帳を放り投げて染サンは床に大の字に倒れ、ふざけた口調でそう言った。 「だって、誰も見てないし、僕も別に言ッ―」 「その顔どう説明すんの?別にどうなってもいいよ、興味ないんだもん。お前にも、朝比奈にも、俺自身にも」  観月にも、ってのは続かないんですね、って思ったのを読まれたのかな。 「俺たち長いの。観月は弟なの。くっだらないことで振り回すなよ、クソガキが」  生徒手帳を拾い上げて染サンは去って行った。

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