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Side T

Side T  鷲宮先輩の家知ってるなら染サンの家も何となく知ってるのでは?って思ったけど染サンの家は知らないみたいだった。まだきちんと話せてないよね?そう訊けば重恋くんは戸惑いながらも頷いた。僕がやってることはやっぱり間違いなのかな。行きに重恋くんがみかんゼリー、僕がスポーツドリンクを買って向かう。鷲宮先輩の家に向かう時とは違うルートだったみたいで周りの家をきょろきょろしてた。お洒落でヨーロッパかぶれの家が多い。でもそれだけじゃなくて、多分緊張もあるんだろうな。僕は鷲宮先輩の家を知らないけど、重恋くんが鷲宮先輩の家はあっちの道って教えてくれた。染サンと本当に近所なんだな。 「うわ」  玄関前まで来て、見えた人影に僕は咄嗟に声を出してしまった。鷲宮先輩がいる。タイミング悪くない? 「お?何してんだ?」  鷲宮先輩も僕たちに気付いたみたいで、スラックスのポケットに突っ込んだ手が動いた。ばつが悪そうだ。 「小松に用…だわな」  軽く溜息つかれて、なんで?って思いながら、鷲宮先輩は腕突っ込んだままのポケットから鍵取り出して、玄関を開けた。なんで合鍵持ってんの?って思ったし、それだけ仲良いのかって思った。染サンが鷲宮先輩のことを弟って言ってたの、染サンの思い込みじゃないのかも。お邪魔します、って上がってすぐ染サンの自室まで進む。やっぱり重恋くんはそわそわしてた。染サンの自室のドアは閉まっていて、ノックしようとする前に鷲宮先輩が勝手に開けてしまう。誰だよって不機嫌な声。不法侵入みたいかな。 「築城です」 「朝比奈です」  染サンは寝間着で、ベッドの上にいた。上体だけ起こして僕らを顰めっ面で見ていた。ノックもせず勝手に開けたのは鷲宮先輩だからね。後ろから鷲宮先輩が割り込むように入ってきた。体調崩して寝込んでるとは姉貴から聞いていた。染サンは大きく溜息を吐いて、大袈裟に頭を抱えた。何しに来たのって不機嫌さはやっぱり隠さない。見るに堪えないくらい痩せてる。 「土産です」  重恋くんと僕から。ビニール袋をベッドの近くに置く。染サンは雑な礼を言ってから鷲宮先輩を見て、綺麗に片付けられた勉強机の上のポテトチップスの袋を指で差した。鷲宮先輩はそれを手に取って袋を広げる。 「あのさ…」  額に貼ってあるシートを剥がしてゴミ箱に投げ入れながら、お前らそんな仲良かったっけって呟く染サン。 「おばさんが様子見てくれってメッセージくれたの」  こいつらとは別件って言いながら鷲宮先輩はもう自宅みたいに寛ぎはじめている。重恋くんはそわそわしすぎて、染サンからも存在しないみたいに扱われて胸が苦しい。 「…で?」 「で?」 「なんか話?」   染サンはベッドサイドの酸化していそうなコップの水を口に含む。僕を見て本題を促した。 「この前途中で帰ったでしょう」 「世話焼きだな」  鷲宮先輩がポテチを噛む音が空間を支配する。 「友達なんで」 「あ、そ。じゃあ冷蔵庫にテキトーに入ってるから食べてて。観月よろしく」  それはどういうよろしくなの?鷲宮先輩の世話よろしくってこと?それとも鷲宮先輩の世話になれってこと?って思いながら、染サンに追い払われるように僕と鷲宮先輩は退室させられた。すげぇ痩せてたな、ってドアが閉まりきった後に鷲宮先輩が僕の知らない調子でぼそって言った。

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