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あとがき +…

あとがき  ここまでお読みいただきありがとうございました。  今回の創作は一人称視点を複数人で回していくという作風、それから主人公に人種的な設定があるという少し試験的なものにしました。主人公がアフリカ系アメリカ人と日本人のハーフなのは自分の創作の中でも初めてで設定的にこの人種設定がいるのかというと正直必要とは言い切れないのかもしれませんでした。裏設定的なものだったにせよ明言する必要性は高くなかったのかもしれません。何故なら無難ではないから。けれどたまたまSNSで目にした「ホワイトウォッシュ」―映画で白人以外の人種設定がある役に白人が起用されること。逆の場合はカラーブラインドキャスティング―という単語にふと気が向いたのかもしれません。少し意味合いや解釈は変わるものの、そういえば自分の現代日本が酷似した世界観での創作では日本人以外いないな?という疑問です。ですが果たしてここでアフリカ系アメリカ人という設定を付ける意味があったのかというと正直分からないのです。ただ絶対に「朝比奈重恋」に当たる人物をこの人種にしなければいけない、ということもなく。それは他3名にも言えたことで。ただ他3名を中心に回したかったために、出来るだけ他3名は自分と似た文化、風土、慣習に身を置いていてほしかったというのが本音であります。ですが、小松や鷲宮や冷生が何人(なにじん)でどこ国籍かなんて本編では触れていなくて、ただ朝比奈重恋の外観的特徴に自分らとは違う、みたいな感想を抱いているだけ。朝比奈重恋のみ人種が明記されているのです。本編で誰ひとり触れてはいないが他3人がハーフではないかもしれないが日本人とも限らないかもしれない。一人称視点であるからこの4人が重恋以外のそういった部分に興味や意識がなかった可能性も十分にあるのです。それを言い出せば設定なんて作中の人物や作者が触れなければ受信者側のイメージで広がってしまっていくわけで、明言されたとしても飽くまで受信者側のイメージを拘束はできないわけですね。  それを大前提として、それが承知の上でどうしても自分の中の朝比奈重恋のイメージがアフリカ系アメリカ人のハーフとして出来上がっていたということです。アフリカ系アメリカ人、という表記は必要なのか迷ったのです。ハーフで十分なのでは、と。或いはハーフであるという表記も必要なのか…  身体的特徴を挙げることでイメージのヒントにはなるけれど、あくまで各々の経験則からくるステレオタイプ的なイメージのヒントにしかならないのではないかと思わなくもないわけです。自分としてもこの設定が活かされているのかは分からず、小松や鷲宮や冷生がその部分に惹かれたのか、それも含めた上でまた別の、またはトータルで惹かれたのかは分からない。ただ受信者側がその設定をなかったことにしてその描写を無視しても別に問題はないわけです。それは小松の美男子設定、冷生のあってないような食物アレルギー設定も。ただやはり自分のイメージをそのまま書き起こすとして、そして彼等なりの性格に合わせた書き方をするとなるとアフリカ系アメリカ人のハーフという明言が必要だったかのように思うのです。これは自分の無自覚無意識の内に刷り込まれた差別意識や偏見かも分からないのですが、どうしても黒人と聞くと道徳の授業で習った黒人差別やまだ現在も続くそういった話が切っても切り離せず、そのために少し過敏になっている節もあるのです。日本にもまだ根付いている日本の中のそういう部分には目を閉じても。「男性保育士」「美人棋士」「女芸人」みたいな、その表記要るのか?みたいな若干のアレルギー反応を恐れていたのです。そういった意味で無難ではない、と自分は思ったのですが同時にハーフという表記のみにして自分のイメージから書き起こされる文章と齟齬が生じることもまた恐れたのでありました。  長々と後書きという名目の言い訳を失礼しました。  そしてお気に入りや評価等、本当にありがとうございました。  最後に本編には入れなかった小松視点でのおまけを載せます。 Side ―  まずいなって思った。同時に、すまないな、とも。  どれくらい朝が迎えられるか分からない、っていう言い方は変か。朝に限らずいつ目が覚めないかもう分からないんだわ、実は俺。こういう風に言えばバカな幼馴染でも分かってくれるかな。でもそれ言ったらあいつ、どういう反応しちゃうのかな。いつも通りでいられないのは嫌だよ、俺は。もう少しの日々なんだから。毎日毎日自分が思ってたより目が覚めるけど、この部屋で首吊った親父が俺をソッチに誘ってるどころか追い出してるように思えて、自分で捨てた分俺にくれてんの?とか思わなくもない。それでも身体はそうも行かない。病院が意思を尊重してくれるのはありがたいけど、退学しちゃったんだよなぁ。今思えばまるで夢みたいな小学時代、中学時代、高校時代。色々あったよ、ほんと。親父が自殺して悲しんで、それから親父の自殺の理由は分からないけど意味は分かっていって恨みながら段々どうでもよくなって、その間も色々あった。観月はずっとバカで、冷生ちゃんって後輩できて、そこから綺麗なカノジョが出来て求婚されて、でもずっと断ってさ、色々あって…そうだな、色々あったんだ。親父、あんたが捨てた息子、それなりに幸せなんだわ。ソッチで会ってもきっと俺はあんたを知らないし、あんたも俺を分からないよ。あんたはあんたの人生捨てたけど、俺は俺の人生捨てられなかったよ。でもそれもアリだよな、あんたの人生だもんな。俺と母さん捨ててまで逃れたい何かがあったんだろ、訊かねぇよ、事情は色々あるもんな。ガキだった、今でもガキの俺には分からないような。俺は毎朝、あんたが首括った天井を見つめるんだ。よく抜けなかったな。もしかしてあんたも俺と同じように痩せたのか。40㎏台にまで減ってまじかよ、って話。  また朝が来て、眠るのが怖くなる。別に眠っちまえば関係ないんだ。焦らされてる。あと1年はある、半年はある、まだ大丈夫だまだ大丈夫だって思ってた時期は懐かしいもので、でもずっと夢の中にいるみたいだった。  いつも通り学校に通って、それでも昨夜入ったベッドの中にいたまま夢の延長なんじゃないかって現実味がなくなって。周りの人間が同じ人間に思えなくなった。この人達は俺よりきっと長く生きる。今日帰り道で事故って―とか、今この瞬間野球ボールが窓ガラス突き破ってきて頭にぶつかって―とか、そういうことでもないなら。なんで俺が、とは思わなかったけどただ周りの人間と自分は違う、そういう線引きが出来てしまって、俺はひとりなんだな、って思って飼育委員外れてから行かなくなった飼育小屋に行ってた。  おはようございます。知らない外国人が俺に笑いかける。クセのない日本語。国籍的には日本人なのかな。今の時代、ナニ人かって分からないから。国籍と遺伝子が合致しないっていうか。彼は毎日俺に挨拶するの。人見知りしないのかな、やっぱ。海外の気質ってやつ?それは偏見か。モヤがかかってた曖昧な世界が輪郭を取り戻しはじめて、俺生きてんだなって思った。母さんがもういない俺を憐れんで声掛けてくれてるんじゃないか、とか、観月が俺に話し掛けてくる妄想を透明になった俺がなおも繰り返してるんじゃないかとか思って。俺の日常だったものを俺が生きたつもりになってるんじゃないかと思ってたから。母さんでも観月でもない他の誰かに見えてんだな、って。俺の都合の良い妄想なんかじゃなかったんだ。  俺は彼に、おはようございますを言われに行く。我ながらバカみたいだろ。かまってちゃんかよ。俺は軍鶏小屋、彼はウサギ小屋。俺とどっちが長く生きられる?ってくだらない競争を小動物に一方的に仕掛けて、それでもこいつらは家畜じゃない。食われるために生きてるワケじゃない。人間によって保護はされてる。それが動物にとっていいことかどうかなんて俺に知る由なんてないんだけどさ。  俺は彼のおはようございます、に暫く返せなかった。笑って返すだけ。怖かったよ、おはようを、俺の口から言うのが。魔法みたいなのが解けちゃいそうだったんだ。ごめんな。シカトこいてたとかじゃないんだわ。人間の出会いと別れ、それは繰り返されることなんだけど、でも俺の場合はもう、違うんだ。すぐに別れることが前提なんだよ。奇跡的回復でもない限り。現実はそんな簡単に奇跡なんて起こらないし、奇跡なんてごく稀な物事の流れだから、そこに善悪なんてなくて、逆をいえばいきなり余命告げられてるこの現状も奇跡と呼べるワケで、願ってどうのこうのって話じゃないんだよな。だから彼の中に俺を残しちゃいけなかった。  結婚はできないよ。求婚に一度は応じたけれど、でもはっきり言わなくちゃいけない。18歳を迎えることが難しい旨を伝えると最初彼女は怒った。私と結婚したくないんだ?って。怒ったというより傷付いたのかな。俺のどこがそんなにいいんだろう。顔がいいって言われたことあるけど、今の俺、かなり惨めな痩せ方してるよ?それに女子ウケする感じじゃないらしいし。30年、40年前の少女漫画っぽいとは言われたけど。普通に過ごしてたっていつ―…、でもそれが近い未来じゃないこと願って祈って、まさか考えもせずに予定を組み将来を誓い合う。自分の意志じゃどうにもならねぇんだって頭にもないまま。相手に自分を刻むのが怖いんだ、俺は。病院で説明を受けて、彼女の提案を呑んでまた別の検査を受けて、きちんと納得してもらって、それでも彼女は俺を諦めない。何度も傾きかけた、相手に自分を残しちゃいけないって決心がもうなかった。俺は彼ではなく、彼女を選んだんだから。  季節が変わってくる6月の終わり、7月の始まりは身体が厳しくなってきて、ベッドの上にいることが多くなった。俺の手握って、俺のこと好きだと言って、まだ諦めない彼女の歴にいきなりペケ付けること、俺なりのエゴが良しとしなかった。困った時の顔は弟に少し似てるな。性格は俺の弟みたいなのに少し通じる部分あるけど。俺の方が困っちゃうよ。18歳迎えられるなら喜んで応じるって、今なら。でももうダメなんだなって何となく分かる。気付いたら病室で、身体が俺の意思には付き合ってくれないみたいなんだ。今何時?それだけは浮かんで、目だけ開いて意識はあるんだけど声は出なくて、身体も動かなくて、俺は天井を見上げた。   ごめんね母さん、親父の分も傍に居たかったんだけど。  ごめんな観月、言いたいこと結局言えなくて。  ごめんよ冷生ちゃん、色々背負わせちゃって。  視界に入ってる電気を押し潰すみたいに瞼が閉じそうで、そろそろ迎えなのかな、親父。保育園に送ってくれた親父の腕時計がスーツとシャツの袖に隠されながらきらきら光ってたのを思い出す。いつか大人の男になると思ってた。いつかパパになると思ってた。でもなれなくてもいいと思えた。パパじゃなくて、誰かの好きな人でいられるなら。  俺の手を放して保育園を去る親父の背中が遠かったのに。もう迎えの時間なんだ。まだ待って、まだ待ってよ、父さん。行きたくないよ。死にたくない。もっと生きたかった。  行かないで。行くのは俺だよ、バカ。まだ、待って。まだやれてないこといっぱいあるんだ。でもこれだけ、伝えておきたいんだ、  朝比奈、おはようって毎日、―

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