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Side A

Side A  冷生の家に泊まって次の日が休みだからって、広い部屋でだらだらした。冷生は料理も上手で本当に完璧なんだ。朝は和食にしてるってインスタントじゃない味噌汁を飲みながら教えてくれた。焼き魚も焼いてもらって、本格的な和食を御馳走してもらった。生活感のないインテリアとか雰囲気で、創作レストランみたいだった。そんな空間の中で、ほぼ一人暮らし状態らしい。お姉さんが深夜に帰ってくるかもしれないから起こしちゃったらごめん、って冷生が言ったけど結局帰って来なかったみたいだった。  冷生はいつもと同じ、おれのよく知る冷生。おれは何を不安がっていたのだろう。冷生がおれから離れていっちゃうんじゃないか、って。夜新しくシーツとか布団カバーとか替えてもらって2人で寝ながら、もう半分寝入っちゃってるおれに冷生は離れるのは君の方かも知れないのに、って笑った。おれは聞いてないフリをする。冗談かな。どういうことだか分からなかった。おれが冷生のこと嫌いになっちゃうかもしれないってこと?おれは冷生ほど頭良くないし、バカだから、分からないや。それに本当に冗談かもしれないし。訊いていいのかな。冗談に決まってるでしょ、って多分笑われるだけ。でも冗談じゃなかったら?曖昧な関係になっちゃったのかな、友達、なんだよね?身体重ねても。壊したくない。周りが変だっていっても。友達はセックスしないって言われても。冷生に変な噂立たないように、学校でもきちんといつも通りにする。  帰りに冷生がおれの家族分のシュークリームを持たせてくれた。むしろおれが気を利かせて何か持ってくるべきだったのに。姉貴の仕事先の差し入れで余ったらしい。本当にお姉さん、どういう仕事してるんだろう。昨晩冷生、誰かと電話してたみたいだけど、お姉さんかな。随分頻繁にだったけど、きちんと寝られたのかな。冷生は押し付けるみたいでごめんね、って謝って、すごく嬉しくて、ありがとうって言ったら冷生は笑ったけど、どこか疲れている感じだった。誰かいると、緊張とかして寝られなかったのかな、って思うと少し申し訳なかった。おれは何度もお礼を言って、家に帰ったんだ。  そこまでは覚えてる。そこまでは。鷲宮先輩がおれを抱き締めて泣いている。この人、泣くんだ。でもなんで?って思いながら。抱き締められながら空席を見る。冷生は休みだった。やっぱ疲れてたのかな。おれのせい?きっと冷生はおれのせいだなんて言わないから、訊くのはよそう。家の用事だって朝、先生は名簿に書いてたけど。そうだ、朝のホームルームが終わるチャイムが鳴る少し前にはもうおれのクラスはホームルーム終わってて、それで鷲宮先輩が血相変えておれのところ来て、おれを見た途端一目も気にせず泣き出して。なんで?どうしたの。  小松先輩がおれに微笑みかけてる。おれの知ってる小松先輩だった。おれが欲しかった、小松先輩。大きな黒い枠組みに入って、おれのよく知った笑みを浮かべて制止したまま。  焼香を済ませたおれに、鷲宮先輩が絶対に冷生を責めるなよって言った。あいつは小松との約束果たしただけだから、って言って、おれの頭をくしゃって掴むみたいに撫でた。視線を感じて見上げたら目が合いそうなのに真っ白く光って、あなたがこの世にすらいない朝が来るんですね、って、おれは反射で見えなくなった小松先輩の遺影を見つめた。 END.

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