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第25話
去っていく母を見ても…それ以上は、引きとめることはなかった。
「アキラ、いいんですか?」
二人きりになり…
色々な意味を含めて聞いてしまう健次。
「…うん、会えてよかった」
ぽつりと呟く。
「アキラ…もう、会えないんですよ…」
わかっているはずのアキラへ…
もう一度確認する健次。
「…いいよ、オレ…お母さんいなくてもいい。いなくても、ここまで育ったし…これからだって…」
母を思っての言葉なのか…無表情で答えるアキラ。
「…アキラ」
「あの人には、あの人の…生きたい道があるんだ。だから、本当にオレは…邪魔したくない…」
再会して感じ取った気持ち。
一度として、リアナを母と呼ばなかったアキラ…
そしてリアナも、一度として息子の名前を呼ばなかった…
別の人生を歩みはじめる母と子。
早すぎる別れだけど…
健次には…これ以上、どうすることも出来なかった。
「……健次さん?」
不意にアキラが呼んでくる。
「はい、なんですか?」
「さっき…何を、ううん…、さっきの健次さんが話してた言葉、どこの国の言葉?」
一度聞き折れてアキラはべつの質問をする。
わざわざ言葉を変えたのは…自分に聞かれたくないから…
それを聞くわけにはいかない気がして…
「さっきの言葉…あぁ、中国語ですよ。リアナさんは、確か7ヵ国語を話せるはずですから…」
「健次さんも?」
「はは、僕は足元にも及びませんよ、ただ医師であるために最低限、共通語とドイツ語、中国語と韓国語を少し使えるだけです…」
「…ちょっと尊敬した」
健次を見上げて言うアキラ。
「いいえ、それよりも驚いたのは、アキラが英語を話せたことです。いつからそんなに上手に話せたんですか?」
「オレは…ずっと前から、ゲームとかテレビとか…英語で聞いてて、字幕で色々見てたら自然に分かるようになった…」
かなり幼い頃から英語を聞いていたアキラ…
習うというよりは…
「はぁ…すごいですね」
「あの人がアメリカで育ったって聞いて、難しいとこは少し勉強したけど…日本語と同じくらい分かるから、いつから話せたとか…分からない」
首をかしげながら言うアキラ。
「アキラ、自然に身についていたんですね。それに、自分で勉強できるとは…すごいですよ。努力する子、僕は好きですから…」
健次は、優しく頭を撫でながら褒める。
幼いながらも、振り返らず…前向きに生きようとする健気な姿を応援し見守るように…
「…ウン」
健次の言葉に照れたように俯き、嬉しそうに頷くアキラ。
その手を引いて病院へと帰る健次。
母親から、託された命だから大切に見守る。
これから先…母親の存在を消して生きて行かなければならないアキラを…
成長するに従い出てくるであろう病気の影響…
その痛みと苦しみ…
そして…息子に対して、心ない父親の態度から…
最後まで守って、支えていく事。
それが、リアナとの約束を果たすことに繋がる。
「アキラ、僕はいつでもアキラの味方ですよ…」
優しく囁き、健次はそう心に誓うのだった。
【軌跡への追憶①】〜アキラと健次の出会い編。完結。
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