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Sugar Baby Love:ほろ甘いホワイトデー②
***
「ホント、何やってんだよ吉川。うまくいったから、良かったけどさ」
眉間にシワを寄せながら文句を言ってるノリトを見て、なぜかすっげー可愛いと思ってしまった吉川。学校が終わり部活をサボって、お見舞い兼ホワイトデーの品を手に、ノリのお宅にお邪魔した。
ベッドに座ってこっちを見てるノリは、普段かけているメガネをせずに、口元には大きなマスクを装着しているため、目元が強調された様子だった。いつものうっすら笑いが見られないけど、これはこれでアリだろう。
熱があるのか、瞳がウルウルしていて、可愛さ倍増だしな!
「両想いなんだから黙っていても、うまくいったと思うぞ。淳がとっとと告っておけば、こんなドタバタ劇にならないで済んだのによぅ」
「淳くんは淳くんなりの考えが、きっとあったんだよ。好きって気持ちを告げるのは、とっても勇気のいることだし、タイミングだってあるでしょう?」
マジメに返答したノリトに、ベッドの端っこに座った吉川が、天井を仰ぎ見る。
「――タイミングか。確かにそうだよな。急に距離を縮めようと近づいたら、逃げるヤツがいたし」
「それって、僕のことを言ってる?」
付き合う前のことを思い出し、ちょっと笑った吉川に、ノリトは眉根を寄せた。
いつの間にか淳くんと仲良くなった吉川が、何かにつけて絡んでこようとして、どうしていいかわからず、僕はいつも逃げてしまったのだ。
大好きな吉川が傍にいるだけでドキドキしてしまって、何か言わなきゃならないのに、言葉にまとめることが出来なくて、オドオドしてしまって、背中を向けてばかりいた。
なにより、自分の気持ちを知られるのが怖かった。邪な想いを知ったら君が、遠くに行っちゃうんじゃないかと思ったから。
だから……だから嬉しかったんだ。僕と同じ想いで告白してくれたことが、本当に嬉しかった。僕は君と恋に落ちたことが、奇跡に思えるんだよ。
「誰にでも人当たりのいいノリが、俺にだけ素っ気なかったのは、ショックだったけどな。だからこそ、追いかけたんだけどさ。逃げんなよって」
言いながら僕にスーパーのビニール袋を手渡してくれる。中にはたくさんのお菓子と、栄養剤が数本も入っていた。
「この溢れんばかりのお菓子の数が、俺の愛の大きさです。受け取ってくれよな」
「ありがと。栄養剤入りっていうのがミソだね。早く、よくならなきゃって思うよ。悪いけどそこに置いてあるカバン、取ってくれる?」
吉川はああと返事して、机の上においてある僕のカバンを手渡してくれた。カバンを開け、奥底にしまっていた箱を、慎重に取り出す。不器用な僕が一生懸命ラッピングした、緑のチェック模様の箱を見せると、吉川がおーっと声を上げた。
「何かすげー。クリスマスプレゼントみたいだ」
「大袈裟だな、大したものじゃないのに。はい吉川、ホワイトデーおめでとう」
何だか照れてしまって、押し付けるように手渡す。
「確かにめでたい! ありがとなノリ」
嬉しそうに言って、箱を上下に振った吉川を、バコンと殴った。
「もう! 何してくれちゃってんだよ。クッキーが粉々になっちゃうだろ」
「大隅さんと一緒に、手作りしたんだってな。淳から聞いたぞ」
叱られたというのに、吉川は反省の色をまったく見せず、デレデレしながらラッピングをベリベリ剥がし、中身を見る。
(僕たち4人って、結局隠し事の出来ない関係なんだな。サプライズが成立しないじゃないか)
今までの経緯を考えながら、むむっと唸る僕を尻目に、すぐ傍でクッキーを美味しそうに、むしゃむしゃと頬張る。
「うっめー! マジ美味いよコレ。店で売れるレベルだ」
「そうかい、それは良かったよ」
チョコ作りよりも、大変なことがあったけど。(不器用な僕は、生地を均等に延ばす作業が出来なかったのだ)こんなふうに食べてくれるなら、作った甲斐があったってもんだ。
まるで小さな子どもみたい、頬張りすぎだろ。がっついて食べる吉川の姿に、思わず苦笑してしまう。
そんな僕の視線に気づいたのか、吉川は食べている手をわざわざ止めて、なぜか僕がつけてるマスクを顎に引き降ろした。
「いきなり、何するんだよ?」
「ちょっとした、確認作業みたいなもんだ。気にするな」
「は? 何の確認だって?」
「ノリのうっすら笑いを見なきゃ、お腹いっぱいになれないからさ」
「僕、笑った覚えないけど」
うっすら笑いなんていうネーミング自体、あまりいい気分じゃない。
「気にするな。ツチノコと同じくらい、希少価値のあるモノだから」
相変わらず吉川の思考、ワケがわからないや。
「ご馳走様でした。美味しかったよノリ」
呆れ果てる僕に、顔を寄せる吉川。イケメンのドアップにどぎまぎしてしまい、顎を引いてしまう。
「逃げるなよ、お裾分けしてやるから」
そう言うと、しっとりした唇を押し当ててきた。絡んでくる舌から、ほのかにクッキーの甘さが伝わってくる。
「……美味しいけど、風邪がうつっちゃうよ」
「ノリから貰ったウイルスで、風邪が引けるなら喜んで引いてやる。熱ごと、俺に渡してしまえ」
額に手を当てて熱を測りつつ、心配してくれる吉川に、イヤだねと言った。
「月末必ず風邪を引く、か弱い吉川が僕から貰った菌で風邪を引いたら、入院騒ぎになる可能性があるからダメだよ」
「それでもいいんだ。入院したらお見舞いに来てくれるんだろ? そしたら病室でHしような」
あまりの発言に、文句を言おうとした僕の口を強引に塞ぐ。
「んんっ、やめ……」
(風邪をうつしちゃうのもそうだけど、階下には家族がいるのだ。何かの拍子に入って来たら、どうするんだよ!?)
必死に抵抗する僕をいとも簡単にベッドの上へと押し倒して、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「一ヶ月前ここで、チョコレートの香りが漂うノリを抱いたのに。何でこのタイミングで、風邪を引くかな」
「――ごめん、気をつけていたんだけど」
「まあ、いいさ。マスクしたノリをしっかり拝めたし、来年リベンジすればいいからさ」
耳元でクスクス笑う声に、つられて笑ってしまった。
「来年は受験で、手作りどころじゃないよ。既製品でガマンしてね」
吉川のあったかい体に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。傍にいるだけで、どんどん体温が上昇していくよ。栄養剤よりも吉川効果で、風邪が早く治りそうだ。
「来年も――そのまた来年もずっと一緒にいようなノリ。俺の気持ちを贈り続けるから、受け取って欲しい」
「じゃあまた、ほろ甘いクッキー食べさせて。煌の想いと一緒に、僕の中で感じたいから」
互いに見つめ合い、引き寄せ合うようにキスをした。まるで未来の約束を交わすように――。
おしまい
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