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第40話
何もなかったことには出来ないけれど、気にしないようにして買い物をした。
家に帰る車内では何も話すことはなくて、家に着いて荷物を置き整理をする。
「これで鍋焼きうどんできるよ!」
「······ああ、あれか。あれは好きだ」
「よかったぁ。明日の夜にしようね!」
「椎茸入れて」
「うん!レシピ見ながらなら作れる気がするんだ!」
「俺も、レシピ見たらできる」
煙草を咥えて火をつけた彩葉は、窓を開けて煙を吐く。
「彩葉」
「あ?」
「······いや、なんでもない」
「何だよ」
ふとした瞬間、彼に触れたくなる。
「おい、何だよ。気になるだろ」
「······あの、き、キスしたい」
「俺のどの行動を見てそう思ったんだよ。お前のスイッチがわからん」
呆れたようにそう言った彩葉に、俺もそう思うと苦笑を零す。
興が冷めたのか、火を消して俺の方に体を向ける。
「······別に、お前にキスされるのはいいけど、自分が勘違いしそうで怖いんだ」
「俺は勘違いしてくれると嬉しいんだけど」
「何言ってんだよ。だから、俺には誰かを愛したり、愛されたり······そんな権利がないんだ」
「あるよ。君は何も悪いことをしてないし、していたとしても、愛されたいと思うのは皆同じだ。当たり前なんだよ。」
そう言って彩葉に近づいてキスをする。煙草の味がして、けれど嫌な感じはしない。
「······だから、少しくらい勘違いしてよ」
「む、無理だ、俺は······」
「愛される事も、愛する事も、怖くない。」
彼の母親は愛されたが故に殺された。
ニュースで知った殺人者の動機は、"愛していたから"だったと思う。
それが本当なら、そのせいで、彼は"愛"が重たくて、怖いものだと思い込んでしまっている。
「怖くない。俺が証明するよ」
「······けど、俺は母さんを守れなかったのに」
「小さな子供に何ができたと思う?大人でもその現場を目の前で見れば慌てふためいて泣くことしか出来ない人がいる。すぐに行動に移せる人は少ないよ。」
象っていた固いそれが、少しずつ崩れていく。
今なら、ちゃんと彼の心を融かすことができる気がするんだ。
「許してあげて。君自身が、君を愛してあげて」
「············」
「それから、俺の気持ちも······受け止めてほしい」
彩葉の目を見て、はっきりとそう伝えると彩葉の震える手が俺の背中に回って、強く抱きしめられた。
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