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第39話

買う物リストを書き出して、準備をして2人で家を出た。 「あれ、ていうか彩葉って謹慎中じゃ······?」 「別にいいだろ。食材がねえんだもん」 「それもそうか。」 「どこ行くんだ。」 「キッチン用品も買いたいんだよね。だからホームセンターに行きたいな」 車に乗りこんで、すぐに出発した。 この密室された狭い空間のせいで、ドキドキと心臓がうるさい。 「秀」 「えっ、何?!」 「何でそんなに驚いてんだ?」 「いや、うん······どうしたの?」 前を向いている彩葉の横顔を見つめる。横顔すら綺麗で、本当に作り物みたいだ。 「昨日、俺に怪我して欲しくないって言ってたけどな」 「あー······うん。」 その後怒られたこともしっかりと覚えてる。あれは余りにも烏滸がましい発言だった。 「この仕事をしてる限り、それは無理だ。そのせいでお前が気に病むなら、早いとこ俺が見えないところに行け。俺ももう、お前に頼ったりしないから」 悲しい言葉だ。 何でもない風を取り繕っているのが、横顔を見てわかる。彼と過ごすようになって、些細な表情の変化だって、わかるようになってきた。 きっと彼は、自制するためにそうやって突き放すような言葉を使うんだ。 「その方が辛い。だから俺は君といる」 「······俺といたところで何も無いんだぞ?お前が俺を好いてくれてるのはわかるけど、だからってその気持ちに応えられない。」 「それは君の本当に思ってること?俺には君がそうならないように自制しているようにしか聞こえない。」 そう言うと、口を強く引き結んだ。 彼が不安に思っているのが目に見えてわかって、それ以上は追求しないでおこうと、小さく息を吐いた。 「ごめんね。えっと······俺はそれでも、君の隣にいたいよ」 「······俺は、誰かに愛される権利も、誰かを愛する権利もない」 努めて無表情でそう言葉を落とした彩葉が不憫で、心が痛んだ。

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