38 / 188
第38話
朝起きると彩葉は既に起きていて、朝食を作りながら煙草を吸っていた。
「秀、卵潰れた」
「え?」
「目玉焼き、失敗して黄身割った」
「······半熟が好きなの?」
「それ以外は邪道だ」
眉間に皺を寄せてそう言うものだから、面白くて笑ってしまった。それを訝しげに見てくる様子にも笑いが零れてしまう。
「お前まさか半熟が嫌いなのか」
「いや、こだわりはないけど······ふふっ、彩葉は半熟が好きなんだね。初めて知ったよ」
「さっさと顔洗ってこい」
ジト目で俺を見て、背中を向ける。
すぐに顔を洗いに行って、歯も磨きリビングに戻った。
「邪道なお前にはお似合いな目玉焼きだ」
「······格好つかない台詞だね」
「うるさい」
手を合わせて「いただきます」と小さく言葉を落とした彩葉。俺もそれに次いで合掌して「いただきます」をした。
「今日は何するの?」
「何もしない」
「······寝て過ごすとか?」
「いや、ぼーっとしてたら1日終わるだろ」
「暇になったりしない?マイナスな気分になったりさ」
そう聞くと首を左右に振る。どうやら彼は少し不思議な過ごし方をするらしい。
「お前は?何すんの」
「んー······買い物行こうかな。」
「何の?」
「食材とかね。そろそろ買いに行かないと」
「······ならついて行く。車出すから、いる物全部買いに行くぞ」
ぼーっと過ごすって言っていたのに、結局俺について来てくれるみたいだ。それも車を出してくれるって······本当に優しいな。
「他に買う物ないのか」
「あ、待って!メモに書く!」
「そんなに急がなくていい」
しっかりと焼けた黄身を見て顔を顰めながら目玉焼きを食べる。そんな姿が可愛くて、写真に残しておきたいくらいだ。
「ニヤニヤするな」
「······ごめんなさい」
顔が勝手に緩んでいたみたいで、彩葉にそう注意されて、もう1度ご飯に向き合いながら何を買おうかなと考えを巡らせた。
ともだちにシェアしよう!