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第37話
ご飯を食べ終わり、皿を洗っているとお風呂に入っていた彩葉が、携帯を耳に当てながら寝室に行った。仕事の電話のようだ。
しばらく待っていると、難しい顔をしながら寝室から出てきて、煙草を吸い始める。彼は思っていたよりヘビースモーカーらしい。
「秀」
「うん?」
すぐに口を開けて言葉を続けるつもりだったんだろう。けれどそれは1度閉ざされて、何かを考えてから話し始める。
「······疲れたから、寝よう」
「え?······あ、うん」
「事が落ち着くまで家に居ろって言われたから、明日からもしばらくいる」
「うん、わかった」
彩葉がそばまでやってきて、俺の腕を掴む。
「寝る」
「······先に寝ててもいいんだよ?」
「いいから、」
腕を引かれて、結局一緒にベッドに入った。誰かと一緒にいる方が落ち着くのかな。
静かに天井を見ていると、隣から聞こえてくる寝息。
体を起こして顔を覗き込むと、深く眠っているようだった。
こうして見ていると彩葉はお母さん似だと思う。
彼の母親は世界中から愛される人だった。それこそ、俺も大好きな女優で、何度映画を観たことか。
そしてあの悲惨な事件。
彼は母親が刺殺されるところを目の前見たはずだ。母親を守れなかった弱い自分が嫌で、自傷行為に走っているように思う。まだ傷跡の残る手首は、彼が気を使っているようで、俺に見えないようにしている。
「······ごめんね。大丈夫だよ」
そんな形だけの言葉を、眠っているからと無責任に吐いた。
届いていないといい。
けれど、この気持ちだけは届いてほしい。
揺れる自分の感情を制御するのは、思っていたよりも難しい。
利用する側でも、される側でもなく、支え合える関係になりたい。
「もっと、近づきたいよ」
眠る彩葉の唇に、自らのそれを重ねる。
混ざり合う体温で、心まで融けたらいいのに。
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