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第42話
穏やかな気持ちで泣けたのは久しぶりな気がする。ソファに座って、秀に持たれながら背中を撫でられていた。
「彩葉、そろそろお腹空かない?」
「うん、でもまだいい」
触れ合ってる体温が心地好くて、ただでさえ恥ずかしい事なのに年下の秀に甘えている。
「彩葉が甘えてくれるの、嬉しいなぁ!」
「そうか」
「うん!いつでも、もっともっと甘えてほしいよ」
「······それは恥ずかしいから無理だな」
傾けていた体を起こし、背もたれに凭れる。隣から文句を言われたけれど、気にしない。
「飯だったな」
「まだいいって言ったのに!」
「軽い物が食べたい。パンでいい。」
「ああもう!話聞かないなあ!」
腕を引かれ、椅子に逆戻りした。秀を睨むように見ると同じような表情で俺を見ていて、そのまま噛み付くようなキスをされた。
そして唇が離れると、真剣な目をする。
「口開けて」
「え······んぁ!」
間抜けに開いたそこにまたキスをされ、今度は熱い舌が口内に入って来た。びっくりして何も出来ないでいると、そのままソファに押し倒される。
絡められる舌、そこから広がるジンジンするような熱。気持ちいいけれど、そのせいでまるで息の仕方を忘れたように呼吸が上手くできない。
こんなの、今まで女と何度もしたことがあるのに。
「ぁ、はぁ······っ、し、しゅう、苦しい······っ」
「話を聞かなかったから、お仕置き」
「ぅ······悪かった、から······おい、舐めるなっ」
秀の舌が耳の輪郭を辿る。そのまま首にまで降りてきて、すぐに止めさせようと手を伸ばし肩を掴んで押そうとした。けれどそれよりも前に両肩を強い力で押さえつけられる。そうされるともう小さな抵抗しかできなかった。
いや、もっとましな抵抗はできたはずだ。
けれど形だけのそれを続けたのは、そうされるのが気持ちよかったから。きっと今の俺は酷く滑稽だと思う。それに気づいた途端恥ずかしくなった。
「秀っ」
「彩葉、ご飯は後ででいいよね」
「ぁ、い、いやだ、腹が減った!今すぐ食べる!」
足をバタバタとさせて暴れる。そうすると秀は不満そうに俺の上から退いた。
「せめて夜にしてくれ······!」
「夜ならいいんだね!?」
その言葉には返事はせずに、逃げるようにキッチンに走った。
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