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第50話

昼頃に若から連絡があった。 相良組との話は上手くいかなかったらしい。 そして、こちらとしても梓さんを傷つけたこと、相良組は愛娘を拘束されている事が許せないだとか。 「それで、君も駆り出されるの?」 「そりゃあ、こんなんでも幹部だからな」 「君が傷つくのは嫌だな」 「抗争が始まればそんな事は言ってられない。」 「わかってるけど······。俺が勝手に思っただけ」 秀が犬に見える。 耳を垂らしてシュンとしているようだ。 「親父と若は護るけど、死ぬ気はねえから安心しろ」 「······そりゃあ死なれたら困る。」 「それに、怪我したらお前が診てくれるんだろ」 「当たり前だよ!でも、そうならないようにして!」 「善処するよ」 昼飯も食べ終わり、眠たくなってくる時間。 近々抗争になるのなら、早く準備をしないといけないのに、まだこうしてゆっくりと過ごしている。 これが初めてではないから落ち着いているんだろう。 「俺ね、本当に君に居なくなられるのは嫌なんだ。」 「ああ、俺もお前の立場なら嫌だな」 素直にそう言うとキラキラとした目で俺を見た。 「本当!?」 「本当。好きになった相手に消えられるのは怖い」 1度それを味わっている。 愛していた母親に消えられた時の、言葉にできない感覚は今も覚えている。 「彩葉、大丈夫?」 「······大丈夫。」 「何を考えてたのか教えてほしいな。」 俺の目を見て様子を伺うようにそう聞いてきたから、自然と口が開いた。 「母さんがいなくなった時のこと」 「······ずっと1人だったの?」 「いや、母さんの親戚の所に連れて行かれて······転々としてたな。」 「それは、どうして?」 「······殺人者の血が流れてる俺は、親戚には許してもらえなかったんだ。」 そう言って自虐気味に笑う。そりゃあそうだ。自分の家族を殺した男の血が流れている俺を、誰が愛してくれるんだ。 「でもそれも当たり前だから、誰も恨んでねえし、悲しいとも思わねえよ。だからそんな顔するな」 「だって······君は何も悪くないよ。当たり前なんかじゃない。」 「これは当事者にしかわからねえ事だ。まあ、お前がそう言ってくれるのは嬉しいけどな」 そう言ってソファに座り、背もたれにもたれ掛かる。 「それでも、君を護りたいんだよ」 「ありがとな」 俺を大切にしてくれているのは、身に染みてわかる。理解している。だからこそ素直に言葉が落ちていった。

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