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第188話 魔性の男

「そろそろいいかな」 秀がそう言ったのは、入念な前戯を終えた後。 もうクタクタになっている俺にニッコリ笑いかけて、膝を抱えたかと思うとペニスが後孔に宛てがわれる。 「挿れるよ」 「ん。――ん、ぅ、あ、あぁ、あ!」 既に快感に酔っていた俺には過ぎたそれが休む間もなく押し寄せてくる。 腰を掴まれ、ゆっくりと奥まで挿入されて、最奥に先端が当たると背中が仰け反って中で絶頂した。 秀はクスクスと笑っている。 俺の腹を撫でてうっとりした目を向けてきては「ここまで入ってるね」と甘い声で言う。 「挿れただけでイッちゃうなんて、エッチな体になったね。」 「お、前が、したん、だろうが……」 「そうだった」 背中を屈めてキスをされる。 その内に少し体が落ち着いて、深いキスに応えていると律動が始まった。 秀の背中に手を回し、ゆっくりと前後に動く秀と深く繋がれるように腰に足を絡めた。 そうすると秀は体を起こし、俺の手を掴む。 なんだかもっと絡まっていたくて、恋人繋ぎをする。 少し目を見張った秀はキスをしながら、だんだんと動きを速く激しくさせた。 俺はただ、意味をなさない言葉を発して、それを受け入れる。 「っぁ、いく、い、ぐぅっ……!」 「――は、ぁ……」 絶頂したのと同時、中が熱くなった。 ああ、秀もイッたんだなと思うと温かくなる。 耳元で僅かほど荒くなった呼吸が聞こえた。 それを聞いているうちに眠たくなる。 ゆっくりと目を閉じて脱力すれば、もう眠気と戦おうとは思えない。 「ん、彩葉、眠い?」 「……」 「ごめんね、すぐ抜くからもうちょっと待って」 「……」 フワフワになった頭で秀の言葉を理解して、ウンウン頷いた。 ゆっくりとペニスが抜かれる。 「おやすみ。彩葉」 額に口づけされる。 一気に安心を感じて、そのままストンと眠りに落ちた。 ■ なんだったんだ。と思う。 朝起きて甘い身体のだるさに襲われながら、昨夜の出来事を思い出す。 いつも以上に甘い時間だったと思う。 おかげで今日の肌ツヤは最高だ。 隣に秀はいない。とっくに起きて朝の支度をしているんだろう。 起き上がろうとは思うけれど、もう少しこの甘さに浸っていたい。 一人で唸っていると、寝室のドアが開いて清々しい表情をした秀が入ってきた。 「おはよう。彩葉」 「……はよ」 「身体、拭いて後処理はしておいたんだけど、気持ち悪かったらお風呂入ってね。あ、そうじゃなくても湯船の準備はできてるから温まってきたら?」 「うん」 隣に座った秀が髪を撫でてくる。 軽くウェーブのかかった金色の髪。 「今日もキラキラしてるけど、いつもより美人度が増してる気がする。」 「……いつもより?」 「うん。大変だ。外に出たら襲われちゃうよ。今日はお家デートね」 「……」 「まあ、独り占めしたいっていうのが本当の理由なんですが。」 本音を零した秀に、クスッと笑う。 手を伸ばすと背中を屈めて抱きしめてくれる。 俺も強く抱きしめ返して、そのまま起こしてもらった。 けれどまだ離れることはせずに、秀の耳元に口を寄せる。 「ハニー」 「……え?」 「ハニー、お風呂に連れてって。」 「ゔっ……」 昔、酒を飲んでほろ酔い状態の母親が、誰かに甘える時相手をそう呼んでいた。 真似をすれば秀はアウアウと口を開閉させて狼狽えながら、顔を赤くして俺を風呂場に運んでくれる。 「彩葉は魔性だよ……」とかなんとか言って。 魔性の男 了

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