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第13話
陸夫の部屋に戻り、ベッドの上で二人は向かい合って座っていた。
陸夫がとれてしまったツノを持ち、一郎の頭を探っている。この辺だと一郎がさす指のあたりにやっと根元を見つけ、ツノをそっとくっつけた。
どういう仕組みなのか、それはぴたりと吸い付く。一郎がばさりと翼を出して、ばたばたとはばたかせた。
飛ぶのかと思って見ていると、一郎が首にしがみついて、唇を押し付けてきた。羽をまき散らしながら舌をもぐりこませ、口腔を犯す。陸夫は息を吸う合間に、唸り声をあげた。
「ちょ、待て、お前の舌テク半端ねーんだか、ら」
しかし一郎は聞いていないのか、唇を離さない。
さすがに息が苦しくなって、顔を離すと2人で荒い呼吸を繰り返す。翼がばさばさと上下して、ふわりと背中に収まった。
嬉しいときに出るのだろうか。
「そもそもどうしてこれ取れたんだ?」
陸夫の言葉に一郎も不思議そうに首をかしげる。
「これは、愛し合った2人が、一生添い遂げる約束を交わしあうために交換するものなんだ。僕が愛した相手じゃないと取れないはず」
「はずって、何、最初から俺のこと好きだったの?」
「あんたのこと知らなかったのにどうやって好きになるんだ」
「なんかよくわかんねーけど、もしかして今の、結婚指輪の交換みたいになってねえ? まあお前が自分のツノ取り返しただけだけど」
びくりと一郎が背筋を伸ばした。
「違うのか!?」
「俺の分は?」
「あ……」
「お前バカだなー」
一郎がむっとするのを見ながら、陸夫は少し俯いて頭をがりがりとかいた。
これで一郎を引き留めるものがなくなってしまった。
「やっぱり、その、地獄に帰るのか?」
ぼそぼそと話す陸夫の表情が見えなくて、一郎は不思議そうに首をかしげた。
陸夫はまだ頭をかきむしりながら、唸る。
「まだ1000人に達してないから帰らない」
「いや、うーん、そうじゃなくて」
頭をかきむしる陸夫の手の動きが激しくなり、一郎がそっとその手をつかんだ。
「……僕はあんたを愛してるよ。ずっと一緒にいたいと思ってる」
その言葉に、陸夫はカッと顔を真っ赤にしてさらに俯いた。何かに耐えるように目を閉じる。
こんな時に、言葉が出ない。もどかしい。どうしたらいいんだ、くそっ。
「……指輪を、買いに行こう」
散々考えた末のこの言葉。
小さくかすれてほとんど聞こえない陸夫の言葉に一瞬きょとんとして、しばらくたってから一郎は悲鳴を上げた、ような顔をした。声を上げるのを忘れている。感極まりすぎて、パニックになっているようだ。
「ああ、重く考えるなよ? お前が嫌だって言うまでずっとそばにいるってことだ」
わざとらしく陸夫は明るい口調で言う。ふ、と一郎の表情が曇った。
それはただの恩義ではないのか。そんなつもりで助けたわけではないのに。
「そんな顔するなよ。俺今すげー愛の告白してるんだぜ?」
頭をかきむしって再びうつむいてしまった陸夫は、耳まで真っ赤だった。一郎の翼がまたばさりと顔を出す。嬉しい悲鳴はやはり彼の口から外へは出てこなかった。
うれしい。初めて、人に愛された。今度は本物だ。
一郎は陸夫に飛びついて、勢い余って頭をぶつけて呻いた。陸夫がふきだすと、ばーか、と一郎の額をはじく。
ばさりばさりと、2人の周りに再び羽が舞い上がった。
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