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「テメ、こら、クソビッチ。一発ヤッたくらいで彼氏ヅラすんなって言いたいのか?でもな、一発じゃねぇぞ。三〜四発はやったからな!」 「え………彼氏……」 呉に言われた内容を三度反芻(はんすう)して、じわじわと頬が熱くなった。 「な、なに照れてんだよ!これからは他の男なんか咥え込めないようにしてやるから覚悟しておけ。ま、まあ体調とかはちゃんと考慮するし、無理な時は言ってくれていいし。お前がビッチだから満足するまでヤリまくる体力もつけるし。でも、俺は別にヤりてぇだけってわけじゃねぇし」 「いや、男咥え込んだりしないし。本当、意味がわからない。呉はなんでオレにこんなことしたんだ?」 「はぁっっ?テメェがビッチだからっ……!」 「いや、何度も言うけどオレ、ビッチじゃないし。まずそこが勘違いだから」 「は?嘘つけ!俺はテメェらが話してたの聞いたんだよ!」 「やっぱ聞いてたんじゃないか。あんなの全部大竹の趣味の悪い冗談だよ!ちょっと考えればわかるだろう、オレのどこがビッチに見えるんだよ!」 「ビッチに見えないのに、ずっと男咥えこんでないとダメな淫乱だって言うからっっ!俺すげぇショックで……。でもカラダが満たされてりゃ、それでいいって言うなら……俺でもいいんだよなって思って」 「それでオレを無理矢理部屋に連れ込んだわけ?」 「無理矢理!? なんでだよ!昨日お前がどエロい顔して『ビッチの意味を教えて』つって俺の事誘ったんだろうが。何度も『また明日な』って念押ししてたくせに。忘れたとは言わせねーぞ」 ………昨日って本屋の駐車場の会話? 『ビッチって意味はよくわかんないけど。とにかく、内緒にするから』 『はぁ!? わかんねーわけねぇだろ。その首の傾げかたとか……』 『いや、ほんとに……じゃ、今度その意味を教えてくれよ。今日は、も、遅いし、オレ帰るから』 『また明日。バイバイ、またな?明日な?バイバイだからな?』 …………。 「いや、誘ってないし!!!てか、何で昨日あんなに怒ってたんだよ」 「怒ってねぇし!……いや、まあ、ちょっと落ち着かなくて、イライラしてたけど」 「ちょっとイライラくらいであんな胸ぐら掴まなくてもいいだろ!オレすげぇ怖かったんだぞ」 「え……そんなことしたっけ?あ、いや、したな。それは……ごめん。でも昨日は」 呉は口ごもってバツが悪そうに目をそらした。 まさかこんなにあっさり謝るなんて。 「昨日は、なに?」 「お、お、お、お、お前がめっちゃハマってるって言ってた本……買って……それを見られたくなかったんだよ。てか、何で居たんだよ。俺が行くこと知ってたのか?」 「そんなわけないだろ」 けど、えっ? 呉がオレのハマってる本をわざわざ買ったって……。普通なら漏れ聞いた内容に興味持ってって思うとこだけど、この展開だと……オレが好きな本だから欲しくなった……ってこと? 「タイトルをネットで調べて、でも通販って履歴が残るし、本屋にないかって何店か回って、唯一あそこにだけあったんだよ」 「え、そこまでして?今、人気だからどこでも売ってると思うけど」 「そうなのか?じゃ、人気過ぎて売り切れてたのか」 好きな漫画の話となると気分が上がる。オレは素っ裸だってことも忘れてグッと呉に顔を寄せてしまった。 そこにサッと呉がキス。 「ちょ……………」 「クソっ。なんだよ、可愛いなもう」 ……ああああ。なんで当たり前みたいにキスするんだよ。すげぇ恥ずかしい。 「可愛いくねぇし……。それより本だよ。面白かった?」 むしろ本の話なんかしてる場合じゃない気もするけど。 「あー、いや、俺はあんま……よくわかんねぇ。けど、三次がああいうのが好きなんだって知れたのは嬉しかったかな」 「えー?カッコ良くなかった?オレ、バトルシーンも好きだけど、学校での何気ないシーンとかも好きでさ」 「バトル?……は、わかんなかったけど、学校は……アレは確かにヤバかった。ああいうのが好きなのか?」 「うん!」 「そ、そっか。じゃ、俺も色々勉強してみるわ」 「え、いや勉強シーンじゃないから。ちょっとした会話とかさ、ああいうの」 「ああ、言葉責め?やっぱり好きだろうと思った。でも写真集じゃさすがにどんな事言ってるかまでわかんねーよ」 「写真集?オレの好きな本って『スカーレット・ボーイズ』のことじゃ?」 「ああ、コレだろ?買うのすげぇ恥ずかしかったんだぞ」 呉がサッと取り出したのは『緋色男子=スカーレット・メンズ=』と書かれた、大判の写真集だった。 表紙は……クールでカッコいい写真ではあるけど、水に濡れて透ける白シャツを着たワイルド系男子がケツ丸出しでしゃがみ、もう一人の股間を横顔で隠してる。 「コレ見てわかったぞ。三次(みよし)の好みに俺がドンピシャハマってるって。あ、学校のシーン、コレだろ?」 呉が開いて見せてくれたのは………。 「いや、いや、ちがうし!思いっきり机に縛られてるし、人に囲まれてるし……えっっコレ、ケツになんかイカツいモノが入って……いやいやいやいや」 「三次は、いつも自分がされるとこを想像しながら見てんの?」 「こんな本知らないって!コレは『スカーレット・メンズ』!オレが好きなのは『スカーレット・ボーイズ』!少年漫画だよ!」 「………………は?」 「だから、高校生が主人公のバトルアクションだよ。もうすぐアニメにもなるし、こんな猥褻シーンは一瞬たりとも出てこない、健全な少年漫画!」 「ええええええええ…………どうしてくれんだよ、コレ結構したんだぞ。しかも本屋で買う時もテメェが後ろに並んでプレッシャーかけてくるから、死ぬほど恥ずかしかったし。それで違うって、なんの罰ゲームだよ」 「知らないよ。勝手に勘違いして、勝手に買ったんだろ」 「んなこと言うなよ……あーもう」 呉がベッドの上を移動し、オレを足の間に挟んで座った。 「せっかくだから見ろよ。三次はどういうのが好き?」 密着する呉のたくましい身体。 素肌に温もりが染みて、写真集なんか全然目に入らないって。 「別にこういうの好きじゃないし」 「ウソつけ。すげぇドキドキしてるし、いまピコンってチンコ跳ねたぞ」 「っっっっ……気のせいだよ!」 写真集より、呉の肌の感触とか、匂いとかそっちの方がヤバイんだよ。 「なに怒ってんだよ。まいいや、せっかくだから最初から一緒に見てこうぜ。んで、どういうのが好みか教えろ」 「なんで……」 ページをめくりながら、呉がオレに頬ずりをしてきた。 ……まあ、見るくらい別にいいか。 すごく見たいってわけじゃないけど、どんなものなのか好奇心を刺激されなくもないし。

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