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人はぼくを、救いようのない馬鹿だというかもしれない
ふたりで会社を出たのは0時を回ったころで、お互い飲んで帰る気力も体力も残ってなかったから、口数も少なく俺の家にまっすぐ帰った。
途中寄ったコンビニで適当におつまみと缶ビールを入手して、お風呂を溜めてる間にとりあえず乾杯。
「あー、疲れ過ぎて声も出ないです…」
「今期はここ乗り越えればあとは余裕だからな。がんばれ。」
「蓮さんは平気?」
「んー、やばい」
って言いながら、信じられないことにモバイルPCを立ち上げ出した隣の男に狂気じみた何かを感じる。
社畜可哀想。
俺はもう仕事するつもりないし一切の資料置いてきたし(もちろんPCも)さっきレジ横で滑り込ませた焼き鳥を食べながらビールを啜った。
コンビニの焼き鳥って、コンビニの焼き鳥って感じがして美味しいよね。だくだくにタレが染み込んだぶるぶるの鶏皮が最高。蓮さんは好きじゃないみたいだけど。
社用スマホにメッセージが入ったけど無視だ。明日やりまーす。
「蓮さん焼き鳥冷めますよ」
「雪弥食べて良いよ。俺それあんまり好きじゃない」
「つくねも買いましたよ」
「…食べたい。くれ」
画面から一切目を逸らさずにあーって大きく口を開けるからそこに串を突っ込んだ。
口の端にタレが付いて、もぐもぐしながら舌で舐め取ってる。
うーん。エロいな。
「もうひとつ、食べる?」
「ん。ありがと」
「はい、あーん」
「うわ…お前やめろよ」
だって蓮さん全然こっち向いてくれないし。
偶然を装って口元を外したんだけどなんでかバレてた。
ほっぺに焼き鳥のタレを付けたまますんごい睨み付けられてちょっとビビったけど、ここで負けないのが俺だ。
ティッシュに伸ばした手を掴んでべろっとそれを舐め取ると、至極うざそうな顔をした蓮さんが遠慮なしに舌打ちした。
「こわ…」
「当たり前だろ」
「蓮さん俺ムラムラしちゃった」
「バカなの?」
「バカなんです。なんとかしてください」
仕事やばくてメンタルやばくて、寝る時間惜しいしお風呂ももう溜まってるけど、そんなの考えられないくらい蓮さんを抱きたいんだから俺も結構やばいやつだな。
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