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第18話 秋 -4-
そして俺は結局コスプレのまま、壱弥と一緒にオバケ屋敷を……たんのー、している。
何で実話系の怪談話聞きながら、オバケ屋敷内を歩かなにゃならんのよ!? 地味にクる……!
≪……~~~…………≫
……これ、夜中にふと思い出したり、夢に見たり……風呂のシャンプーとか目を閉じた時とか、浮かんできそうなんだけど!?
そういう考えに行き着いたら、俺の身体が数度跳ねた。
「……! ~~!」
「―……みーちゃん、実は怖いでしょ」
う。う。う……! 暗いのに何で目敏いんだ、壱弥……! お前の目は暗視内臓なのか……!?
だが、実際そうだ。入り込み過ぎかもしれないが、事実だからしょうがない……!
「……壱弥ぁ……こわ、い……。どうしよ……」
「……手、繋ご? そしたら、大丈夫だよ」
「うん……」
暗いし……出る前に手を繋ぐのを止めれば大丈夫だよな?
そうして俺は振り向いて壱弥から差し出された手を、暗闇のなかで掴んだ。
闇の中で振り向いた壱弥の目元が僅かに細められ、微笑んでいる様に感じるのは、俺の妄想だろうか?
だが、繋いだ手は妄想じゃない。俺の手を力強く握ってくれている……。
生身の脅かす役よりギミックでの"脅かし"が多いから、多分こうしてても大丈夫。
そして半分過ぎたかなと感じた辺りの暗闇の中、壱弥から小声で……こんな質問をされた。
「……三葵はさ、好きな奴とかいる?」
「好きな奴? ……俺……は……」
壱弥が俺の手を握る力を強め、暗に"ちゃんと答えろ"と言われた気がした。
握られる力強さに肌の密着度が増して、熱くなってくる。
歩く速度が少し落ちた。俺の答えを壱弥が待っている。
……それを、言わなくちゃいけない、のか?
壱弥、俺の答えは……
「……いる。好きな奴、いるよ」
壱弥の事だよ。
「……そう……かぁ……」
「ああ……。でも、相手は内緒な?」
お前が、ずっと好きなんだよ、俺。
「…………」
「…………」
……こんなオバケ屋敷の中で、何でこんな質問するんだよ?
暗いし、表情があまり分からないから、そこから意図を汲み取るなんて到底無理。
……ああ、だけど良い事も有るな。
俺の動揺も、赤い顔も……この中なら分からないだろう。
でも俺はここで「壱弥は?」と切り返せなかった……。
切り返して、壱弥が想い人の名前を俺に告げるかもしれない可能性が怖かったんだ。
壱弥は好きな奴が、確実に居る。
それはどうしようもない……現実、なんだ……。
あの桜の夜を思い出す。
闇の中で……俺の想いはここでも密かに……散っていくんだな。
「―……手、ありがとな、壱弥」
そして俺は出口の数歩前で、壱弥の手を自分から離した。
―……文化祭の逆転喫茶はそれなりに好評で、俺は"あーん券"売り上げ一位だった。
壱弥の宣言通りで。
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