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第28話 冬 -7-
「ここ、三葵のでネバネバのぐッちゅぐちゅ……」
そう言って、クマの腹を撫でる壱弥。な、なぜ微笑んでる……。
「ご、ごめん……」
「んーん、大丈夫だって言ったじゃん。寧ろ嬉しい。ご褒美」
どういう解釈してんだ!
「脱がせた甚平を洗えば、クマは大丈夫だから」
「うん……」
でも、そんなデカイの……普通じゃ無理だろ……。
やってしまった感が半端無い……。
そんな俺が見ている中で壱弥はクマのぬいぐるみから甚平を脱がせた。
すると、その下には……
「―……ラップ……?」
そう。何と、ラップでぐるぐる巻きにされたクマが現れたのだ。
「甚平は洗って、ラップを処理すればクマはほら……大丈夫だろ?」
「……た、確かに?」
い、壱弥さんってば、そんな仕込みしてたのかよー!!
確かにクマにしがみ付くと楽だったけど……。
そんな仕込みをしてたって事は、あう、あうぅう……!!
俺は事実に顔が真っ赤になり、何とかおさめようと薄い掛け布団のを肩に掛けて窓……カーテン裏に逃げたが、壱弥が直ぐに追ってきて後ろから抱き締められた。
こ、これじゃ……クールダウンしたいのに意味ないじゃん!? でも嬉しいから受け入れる!
そして前方の中庭に視線を向ければ、ガラス越しに"ハラリ……"と揺れる白……。
「―……雪だ!」
「ああ。通りで寒くなってきたワケだ……」
そして俺と壱弥は、部屋のカーテン裏でハラハラと降る雪を見た。
寒いけど、後ろからの壱弥の体温が心地良い。
「……壱弥、春になったらあの公園に花見に行こう? 約束な?」
「ああ、約束だ」
俺は壱弥の言葉に頬を緩めて、くるりと向きを変えて正面から抱き付いた。
力を込め合ってお互いを抱擁する行為は息苦しいが、同時に気持ち良く、満たされる。
休みの日、暖かい日中にドーナッツを買って満開の桜を見に行こう。
あの時のベンチに座って薄紅の桜を見上げれば、きっと風に舞うハートを彷彿とさせる花びらは……
俺達を柔らかく包み込む、花嵐になるに違いない。
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