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後日談2
次の日、ハヤテが起きた時にはアルは居なかった。リビングに行くとラシュが「アル様はお出かけです」と教えてくれた。
ハヤテに黙ってアルが出かけるなんて初めてだ。なんとなくモヤモヤしながらハヤテは朝食兼昼食を食べた。一人の食事がこんなにもつまらないものだったなんて……美味しいはずのラシュの料理が少し味気なく感じた。
「ねぇ、アルはいつ戻ってくるの?」
「夕刻には戻られるとお聞きしました」
ハヤテは少し考えて「ねぇ、手伝ってほしいことがあるんだけど」とラシュを見上げた。
日暮れになってアルは戻ってきた。てっきりリビングで本でも読んでるだろうと思ったがハヤテがいない。
「ハヤテ?」
話し声が聞こえて、厨房の方に行くとハヤテとラシュがいた。
「あっ、お帰り。ちょっとダイニングで待ってて!」
「あ、ああ。わかった」
ハヤテに追い立てられるように厨房を追い出され、アルはダイニングの椅子に座った。
少しして良い匂いがしてきた。ハヤテがトレイに料理を乗せた料理を運んできた。昨日、ファイサルのところで食べた餅米を蒸した料理が皿に乗せられてある。
「あ、あのね、昨日、アルも俺の好きな料理を美味しいって言ってたでしょ。だから作ってみたんだ」
「お前が作ったのか?」
「うん。ハルキより上手じゃないかもだけど……でも、アルが気にいったらまた作れるし」
照れ笑いのハヤテの顔にアルの胸がぎゅうと締め付けられた。
可愛いことをする。この少年は可愛い。自分の好きな料理をアルも好きと言った。それが嬉しかったから作ったのだと言うのか。アルはそんなハヤテが可愛いくてたまらない。
「ついでにラシュにこの国の料理教えてもらって……わっ!」
ハヤテはアルに強く抱きしめられた。アルはハヤテの頬や黒髪にぐりぐりと鼻先を擦り付けて、ハヤテの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。。
「お前……可愛すぎるだろうが。たまらん。好きだ。ハヤテ。可愛い。可愛すぎる。くそ、今すぐ抱きたい」
「えっ、ちょっと……!」
腕の中で慌てるハヤテに構わず口付けるアルに、コホンとラシュが咳払いをした。
「せっかくハヤテ様の作られたお料理です。熱いうちにお召し上がりください」
それもそうだ。アルはしぶしぶハヤテを抱く腕の力を緩めて、ひょいと膝の上に乗せた。
「食べさせてくれ」
背後からハヤテの肩に顎をちょこんと乗せて、アルは甘えるようにねだった。ラシュはそんな主の姿を初めて見たので少しギョッとして、そそくさと厨房に戻っていった。
「う、うん」
ハヤテは笹の葉を開いて、まだ熱い餅米にふうふうと息をかけて冷ました。その仕草も可愛らしくて、アルはパタパタと尾を振ってハヤテが食べさせてくれるのを大人しく待った。
「ほら」
ハヤテは餅米を手にして、アルの口元に運ぶ。アルは口を開けてハヤテの手から食べた。
「美味い。昨日のより美味いぞ」
アルはべろべろとハヤテの手の平を舐めた。
「くすぐったいよ」
ハヤテはまた照れたように笑った。
ハヤテの作った料理を綺麗にたいらげたアルは、風呂に入ろうとハヤテを抱き上げて浴室まで歩いた。
服を脱がされて首輪も外され、性急に全身を洗われたハヤテは素っ裸のままタオルに包まれて寝室に運ばれた。
「待って、アル! ちょっと、わっ」
あれよあれよとベッドに押し倒された。
「せ、セックスするの?」
「当たり前だ」
アルはハヤテの口の中をべろりと舐めて、首筋から胸、小さな乳首をちゅうと吸った。
ハヤテは「あう!」と、華奢な背を反らせた。すっかり乳首が感じるようになってしまった。どこもかしこも狼の舌で舐められるとたまらなく気持ちがいい。
「あ、あ、待って……」
「なぜだ?ほら、もう勃ってるじゃないか」
「アアッ!」
震えるペニスをぱくりと咥えられて甘い悲鳴を上げる。じゅるじゅると卑猥な音を立ててしゃぶられて、あっという間にイってしまう。
「あ……だめ、だめ……」
「そんな顔で言っても逆効果だ。いやらしい子め」
アルは焦ったような声でディルドを手にし、媚薬入りの香油を垂らしてアナルを解しはじめた。今夜のアルには余裕が無い。前も後ろも責められて、ハヤテは早々に理性を手放した。
何度もアルに激しく求められて、ハヤテはぐったりとシーツに沈んだ。最後の方は出すものが無くなり、ハヤテは空イキしまくっていた。
「大丈夫か?」
アルに優しく髪を撫でられて、ハヤテは潤んだ瞳でぼんやりと見上げた。
「すまん。余裕が無かった。お前が可愛いすぎるのがいけない」
というアルの言葉にハヤテは拗ねたように口を尖らせた。
「……なんで……俺のせい?」
「……俺が悪いな。抑えが効かなかった。体は痛くないか?」
「大丈夫」
アルはホッとしたように息を吐いて、思い出したようにベッドを下りた。何かを手にして戻ってきたアルはベッドヘッドに枕を重ねてハヤテを座らせた。
「これを」
「え?」
アルが持っているのは首輪だ。上品は茶色のヌメ革にトライバルな装飾がされている。首輪と言うよりはチョーカーのようだ。
「昨日、ハルキは美しいデザインの首輪をしていただろう」
そういえばそうだった。ハルキは細やかな細工のされた首輪をしていた。ハヤテはオークションの店が用意した黒の首輪をしていたのだ。
「ファイサル将軍がハルキを大切にしているのを見て、俺は少し自分を恥じた。俺はお前に対して酷かった。奴隷の証の首輪を付けさせたままだった事も情けない」
「そんなの気にしないし。そりゃ最初は怖かったけど、今は優しいし」
「ハヤテは優しいな。ああ、好きだ」
アルはハヤテの頬を舐めて囁いた。
「町で一番美しい装飾の首輪だ。お前の細い首に似合うと思う」
首輪の裏側にはアルの名前の刻印がされていた。
アルに新しい首輪を付けられて、ハヤテの胸がきゅうと締め付けられた。
アルは立派な体格の獣人だ。同じ獣人からも恐れられる黒狼の将軍なのに、ハヤテの為に町中を探してこの首輪を見つけてきたのだろう。そう想像すると、この黒狼を可愛いと思ってしまう。
「ちゃんとオーダーで作らせよう」
「いいよ。この首輪、気に入った。似合うんでしょ?」
「ああ、似合っている。可愛い。好きだ」
「ありがとう。俺も……たぶん、アルのこと、好きだと思うよ」
「本当か?」
「う、うん」
「俺はお前を買って、酷い扱いをしたぞ」
「でも、か、買われたのがアルで良かったって思う……わっ」
ハヤテは再びアルの腕の中だ。抱きしめられたハヤテはアルが黒い尾を打ち振っているのを見てドキドキと胸が高鳴ってしまう。
……好き……
自分はこの黒狼が好きなんだと思う。もう村に帰りたいという気持ちは無かった。いつもいつもこの腕に包まれて、ハヤテの居場所はアルの腕の中になった。
「……ああ、好きだ。ハヤテ。お前が可愛くて仕方ない」
「ぅん」
「可愛いハヤテ。好きだ」
「お、俺も、好き」
ハヤテの声を聞く度にアルの尾は嬉しそうに揺れるものだから、ハヤテはアルの為に唇から言葉を紡ぎ続けた。そうして二人はぴったりと寄り添い合って眠りに落ちたのだった。
end.
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