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第1話・ひめごと。

 遊郭――江戸幕府からも公認された遊郭は吉原遊郭をはじめ、様々な名称があり、安土桃山時代から長きにわたって現在も存在しているそれは、色事を求めてやまない庶民のささやかな楽しみとして設けられた場所で、周囲は塀や堀などで囲われていました。  女を好む人間もいれば男を好む人間もございます。  春を売る者を娼妓(しょうぎ)と呼びます。  男も女も、その中で働く者のほとんどが幼くして両親に先立たれ、独り身になった者や借金の取立てで売られてやって来た者たちばかりで、貧しい生活を強いられておりました。  この地へやって来た彼もしくは彼女らは皆、年の頃なら10歳前後で、まだ年端もいかぬ者たちばかりでございます。  というのも、狭い廓で芸を仕込まれ、女なら16歳。男なら12歳で初めて客を取るからです。 これを水揚げといいました。  水揚げ前は禿(かぶろ)と呼び、新造となって水揚げをした後の色子の世話をしたり、色子の複数の客が登楼している場合は待たせる客の話相手をするのもその仕事の一部でございました。  そんな遊郭の中でも、花街(はなまち)という(くるわ)に、ひとりの色子がおりました。  名は春菊(しゅんぎく)。  見目美しい彼は、色白で細身の身体をし、流れるような艶やかな黒髪は腰まであり、紅をささずとも赤くふっくらとした唇と大きな二重の目が印象的な一見すれば女のように見えるほどの愛らしい姿をしておりました。  彼の歳は15歳。  もうとっくに春を売ってもいい年頃であるが、けれど彼は水揚げもまだ済ませていない新造でございます。

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