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 というのも、この花街にやって来た当初から栄養失調で身体をこわし、倒れてしまったからでございます。  それから少しずつ体調はよくなってきているものの、けれどまだ完全には回復しておりません。  かといって、彼の容姿は美しく、楼主としては彼を解放するわけにもいきませんでした。  そして下された結論は、無理矢理水揚げをしてしまおうという春菊にとって、もっとも残酷なものでございました。  このお話は、そんな場面からはじまります。 「何を言っているんです!? 彼にはまだ無理です!! 無茶をさせればまた倒れますよ!?」 「俺は楼主(ろうしゅ)。つまりはこの遊郭のオーナーだ。いくら医者といえども、お前に指図を受けるいわれはない」  楼主の部屋の前。  言い争う二人の内一人はもちろん雇い主で、説得しているのは春菊を診てくれている、医師の谷嶋 匡也(やじま きょうや)である。  二人に御茶を汲みにやって来た春菊は(ふすま)を開けようか開けまいかと迷っていた。 「アレをどうしようが俺に主導権がある!」 「しかし!!」 「そこまで言うなら、お前がアレを身請けするか? 今までお前に渡した診察料と身請け代を上乗せして支払ってくれるか? できもしないのに軽口を叩くな、部外者風情が!!」  いつもなら、それで終わる言い合い。だから春菊は、「失礼します」と一言添えて麩を開けた。  そこに居たのは、煙管(きせる)をふかしている恰幅のいい中年男性と、長身で肩幅が広いすらりとした粋(いき)な青年だった。  その青年こそが春菊を診てくれている医者で、実は彼の想い人でもある。

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