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episode.1-1 「Raven Investigation Company」

「話の分からん奴やな、利子も納得ずくで借りた金やで。それを今なって払われへんて、ドロボーかいな!」 菱田が机を蹴った。今に貧乏揺すりを始めるだろう。 小汚い事務所の天井に紫煙を吐く。 「――正気ですかぁ社長~、レンガの1本や2本で済む話じゃないですよ。へっへっへ」 背後で受話器を手に仰け反る男が笑った。 菱田の向かいで震える客は、その笑声にすら飛び上がった。 「何とか言いや、都知事認可の1号店やでうち…なんも可笑しい事あらへんがな!そうやろ」 青褪めた客が頷くのを見守る。 携帯灰皿に灰を落とし、一人俯瞰する青年は背凭れに身を投げた。 金融業なんて登録制なのだから、15万程度払えば証書はこっちの物だ。しかも1号は新規登録店。 その後3年毎の更新で、数字が増えていく。 「…おい萱島、何一服しとんねん。元はと言えばお前が引っ張ってきた客やろが」 菱田が白髪混じりの頭を掻き毟る。 矛先が此方に来た。 灰皿の中で消火し、億劫そうに顔を上げた。 客がはっと、視界に入った萱島に息を飲んだ。 憔悴しきった目に光が射す。 とても暴力団組員とは思えぬ、優しげで綺麗な顔をした青年が其処に居た。 「あ、すいません菱田さん…ちょっと社長が話したいそうで」 やり取りを電話番の男が遮る。 テンポを崩された菱田は、苛立ちを隠しもせず怒鳴り返した。 「何処の社長や!」 「RICの神崎社長です」 「…ほんまか。萱島!代わりに相手しとけ」 変わり身の速さよ。 いそいそ立つ男を尻目に、呆れて腰を上げる。 萱島が入れ替わり対面へ掛ければ、客は縋る様に頭を下げていた。 「すいませんすいません!返したい気持ちは勿論なんです!でももう、何処にも宛が無いんです…!」 「分かってますよ、良いから顔上げて」 赤い額を上げ、客は泣き出しそうに顔を歪める。 微笑む青年が煙草を差し向けていた。飴玉みたく綺麗な目をして。 「大変でしたね…俺も貴方の為に知恵絞るから、一緒に頑張って行きましょう」 「…っはい、はい…」 客は鮮やかに落ちた。 萱島の手を握り締め、地獄に現れた仏とばかりに頭を垂れる。 アメとムチのダブルバインド。菱田・萱島コンビの常套手段だ。 「――はーっ、いやいや買被り過ぎやけど…まあ確かに気が利くのは墨付けときますわ、なんなと好きに使たって構いませんで…おい、萱島!」 またも名指しされ、煩わしげに菱田を見やる。 「お前、明日から来んでええわ」 「えっ」 萱島と客が同時に素っ頓狂な声を出した。 こうして黒川一家の幹部・萱島は、突如調査会社への出向を命じられたのであった。

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