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episode.2-15
何故この青年はこんなにも、己を安堵の様な、微温湯に浸る様な、それでいて切ない様な心持にさせるのだろうか。
視線を合わせていられなくなり俯いた。
然れど離れた指先を、自分の方から掴まえていた。
「…ごめん」
消え入りそうな声で萱島が漏らす。
そして、ゆくりなく外聞も無く。青年に身を寄せ、そのシャツに顔を埋めた。
「こんな所で泣かないで下さい」
唐突に甘えを見せた萱島を、戸和は何ら拒絶しなかった。
呆れた声を落としつつ、反して大きな手が背中を宥める。
「泣いてない」
「話したくないならそう言って頂かないと」
「…話したくない」
「分かりましたよ」
何だかんだ優しい部下の手へ痛みが遠退く。
どちらが年上か分かった物では無かった。
「――貴方が中々帰って来ないから、うちの職員が五月蠅くて手に負えない。そんな怪我して来たんじゃ何言われるか分かりませんが、さっさと戻ってどうにかして下さい」
萱島は漸く顔を上げた。
感情の読めない、けれど明らかに柔らかい面持ちが其処に在った。
「萱島さん、貴方はたった1日で彼らの信頼と好意を勝ち得た。素晴らしい才能をお持ちなんだ、もっと自信をつけたらどうなんです」
此方を真っ直ぐに射抜く。
涼しげながら思いやりを秘めた瞳が、とても心地良い。
未だ大人しい相手を、戸和は車のドアを開けて中へと促した。
素直に萱島は助手席に身体を滑らせ、シートに体重を預けていた。
(すごく、世話を焼かれている)
優しいのは知ってたけれど、其処まで優しいとは思わなかった。
先に触れた身体が、いつまでも残るほど温かかった。
少し間を開け、隣に乗り込む。
戸和は此方が何か言う隙も無く、自販機の缶珈琲を差し出した。
「ありがとう…戸和君…でもこれノンシュガー…」
「子供みたいな事言わないで下さい、あんな大量の砂糖を摂取するなんて冗談じゃない」
ギアを回し、ハンドルを握る彼の諌めへ黙る。
神妙にプルタブを起こし、大人しく中の液体を飲み込んだ。
果たしてこれは、本当に唯の珈琲なのだろうか。
じわりと甘く広がる味へ、萱島は驚き手中の缶を凝視していた。
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