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episode.2-14

お前は神崎社長か。 一方萱島は沈黙する携帯を手に、展開へ冷や汗を掻いていた。 既に帰ったものの、霧谷に連れ去られた自宅で散々に嬲られ、意識が吹っ飛んで起きたら夕方になっていた。 それから諸々の事情を思い出し、顔面蒼白で携帯を確認。慌てて連絡を入れた次第である。 取り敢えず15分以内にシャワーを浴びて、身支度を整えなければ。 萱島は激痛に蹌踉めきつつ、半ば這って風呂場を目指した。 (あのDV野郎…今度会ったら殺してやる…) もう何回目か知れない誓いを立てる。 それにしても何やら副主任直々にいらっしゃるそうではないか。 今度こそしっかりしろと張り倒されるのだろうか。 シャワーのコックを捻り、シャツを着たまま温水を浴びた。 喉がひり付いて咳き込んだ上、もう全身が痛かった。 「…御望み通りほんと惨めだよ、畜生」 悪態を吐いて浴槽に項垂れる。 そうこうしてる間にも時間は過ぎる。 浴室を出て、髪を乾かし、ベルトを探しまわった。 汚れたジャケットを放り投げ、シャツの釦を留めていた矢先にインターホンが鳴る。 間一髪。 萱島は無意味に肩を跳ねさせ、エントランスとの通話機に半ば飛び付いた。 「――あ、はい、すいません!直ぐ行きます」 着衣もそこそこに鞄を引っ掴み、部屋を出てマンションの出入り口へ走った。 ネクタイを締め黒いパーカーを羽織った青年が、此方に気付いて目を見開いた。 「萱島さん、何もそんなに急がなくても」 「…いや、本当にすみませんでした…というかどうした、何も態々お前が迎えに来る事は…」 其処で急に口を噤んだ。 近付いた戸和の手が、そっと自身の頬に触れたからだ。 「この怪我は?何があったんですか」 つい答えあぐねる。部下の長い指先が、今度は萱島の手首へと触れる。 「こっちは。出る時は無かったでしょう」 「おお…何だよ戸和君、そんなに俺の事が気になるの…」 「茶化さないで下さい萱島さん」 戸和が叱る様な目つきで此方を見ていた。 「俺は心配して聞いているんです」 真摯な態度に息が詰まる。 初めて真っ向から見た彼は、想像以上に温かい思いやりを帯びていた。

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