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episode.2-13
小用と言われた手前、更に電話も出ないとあっては流石に気になった。
「では先方に掛けてみます、有り難う御座いました」
告げて通話を切ろうとする。挙動を遮り、今度は本郷の側が新たなネタを放り込んできた。
『そう言えばアイツ、俺と同時期に手術したんだと』
「…はい?」
突飛な話題と、その内容に眉が寄る。
『しかも角膜の提供者も同一人物じゃねえかって…それがその気無く出会すなんて面白い話だよな』
一瞬、何と答えて良いやら返しに詰まった。
副社長は気にした風も無く、労う言葉を寄越して通話を終えた。
暫しその場で事切れた携帯を見詰める。
一人置き去られた戸和は、硝子窓に手を掛け“彼”へ問い掛けていた。
「偶然なのか、これは」
窓の向こうに置かれた簡素なベッドの上、年若い青年が横たわっている。
もう一年も目覚めぬ横顔。
管の通された姿を映し、戸和はそっと板越しの輪郭をなぞった。
「…お前はどう思う、ジェームズ」
沈黙する男へ、双眼が哀愁を帯びて細まる。
其処で鳴動する携帯が静寂を割った。
再び携帯を探り、発信元を確認して驚いた。
現在まで探していた名前。
ワンコールで応答するや、口火を切って謝罪が飛んで来た。
『…あ、戸和君…すいません、萱島です…』
「萱島さん何処をほっつき歩い…その声はどうしたんですか」
『いや何でも無いんで、今から直ぐ戻ります』
機械越しの声は明らかに掠れていた。
3時間で何をしたらそうなるのか。
「今はどちらに」
『あー…ちょっと、いったん自宅に…』
「動かないで下さい萱島さん」
回線の向こうで息を飲むのが知れる。
『…何だよ動かないでって、後ろに何か居るのかよ』
「後ろに何か居るかは知りませんが、迎えに行きますので15分程待機でお願いします」
『えっ?ば、馬鹿か、何言ってんだ!いいよ忙しいのに…』
慌てて遮られるが、生憎聞く耳などない。
戸和は車の鍵を取りに戻るべく、メインルームへと踵を返した。
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