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episode.2-12

スラックスが音も無く地面に落とされる。 霧谷の指が、慣らしもしない秘所にいきなり捻じ込まれた。 「っい、」 「お前、結局は同情されたいんだろ」 相手も前を寛げ始める。 両脚を抱え上げられ、萱島は先の展開に竦然として抵抗した。 「…め…やめ、ろ…霧谷…」 「悲惨な生い立ちだ、ああ可哀想だって慰められて悲劇ぶりたいだけだろ…反吐が出るんだよ」 「ッ…い、っぁあ…、ァ…」 無謀な塊が突っ込まれ、只管衝撃へ慄く。 悲痛な叫びと共に、見開いた瞳からぼたぼたと涙が溢れた。 容赦無い暴力と、焼ける様な熱。 己のシャツを握り締めて震える萱島に、霧谷は目を眇め額を寄せていた。 「…お前みたいな馬鹿、誰が愛してやるんだ」 喉を引き攣らせながら呆然と男を見上げる。 そして急に慈しむ様に、コイツは唇を寄せて柔らかく啄むのだ。 舌を離し、視線を交わす悪魔。 追い打ちを掛けるその手が、柔らかく濡れた頬を撫でやった。 「…俺だけだろ、分かれよ」 目にかかる前髪を払い、また唇を舐め取る。 (止めろよ) 深まる口付けを受けながら、萱島は泣き出しそうな顔で霧谷の腕を掴んでいた。 (何で、いつも其処で) 抱き抱え霧谷が律動を速める。 必死に声を噛み殺し、男の肩に項垂れる。 何で、優しくする。 頬を熱い雫が伝い落ちた。 萱島の両腕が、縋る様に霧谷の首へと回された。 「お疲れ様です副社長、お忙しい所申し訳ありません」 『いや全然。どした?』 相変わらず柔和な声が響く。 戸和は書類を片手に、徹夜明けの背を壁へと預けた。 「萱島さんがどちらに行かれたか御存知ですか」 『未だ帰って来てないのか?』 「ええ、電話も繋がらなくて」 『…事務所じゃねえかな多分』 了承を呟く。 彼が出掛けてから優に3時間は経っていた。

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