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episode.2-11

「またヤってたのか。能が無えな」 「離せよ変態」 「オイ、誰に口利いてやがる」 縫い止められた腕がみしりと軋んだ。悲鳴を上げる骨に顔が歪む。 「あの家引き払う気か?行く当て在んのか」 「関係無いだろ」 「彼氏に関係無いは無えだろ」 萱島はダブルのスーツに外套を纏う男から目を逸らした。 不意に相手の膝が上がり、鳩尾に痛みが走る。 衝撃に思わず咳き込んで冷や汗が伝う。 霧谷の目が可笑しそうに細まった。 「…何処に行こうが無駄だ萱島、お前は糞野郎なんだよ。殺し合いで善がり狂う、ロクでもねえ公害野郎」 今度は右頬を張られた。 そうしてよろけた肩を、無慈悲に壁に叩き込まれた。 「何とか言えよ社会のクズが。え?誰がお前なんざ本気で相手するんだよ」 「ってえな…クズはてめえだろ」 胸倉を締め上げられる。 「俺はお前みたいな出来損ないが、マトモな面して生きてんのが一番癇に障る」 お次はネクタイを力任せに引き寄せた。 流石に息が出来ない。男の腕に必死に爪を立てた。 「気色悪ィんだよ、俺に殴られながら悦びやがって。お前はアドレナリンジャンキーどころか、ただのドマゾのド変態じゃねえか。違うなら何とか言えよ、なあ」 ネクタイが完全に気道を塞いだ。表情を歪め、唇から声にならない喘ぎを漏らして男を引っ掻いた。 視界に生理的な涙が滲む。 覚えた恐怖に身が震える。 矢先いきなり呼吸が再開し、またも咳き込んで崩れ落ちる。 首を押さえて喘鳴するも、休む間もない。 直ぐさま霧谷の手が追い掛け、前髪を掴んで引き上げていた。 「嬉しいだろ、俺に手酷く扱われて」 「…死ねインポ野郎」 同じ箇所を張られた。 口内が切れ、地面に血を吐き捨てた。 「立てよ萱島」 無理矢理捻り上げたかと思えば、片手がそのままベルトを外しに掛かる。 ぞっとして抗いかけるが、何度目か分からぬ殴打に蹌踉めいていた。

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