185 / 186
ex
本部では月初に定例ミーティングがある。
責任者を交え予算やら目達やら業績報告が主で、その日は30分程度始業が早い。
唯でさえ寝る時間の少ない社畜は、1日は殊更に目つきが悪い。
尚、この日メインスクリーン手前には、久方振りに定例に姿を見せた社長が居た。
隣にはPCを操作する主任が控えている。ただ、どう見ても半分寝ている。
「俺からの話は以上。今月から資格手当の額が上がるからな、皆積極的に取って行けよ。栄養士とか何の役にも立たない資格は取るなよ」
特定の人をディスるのは感心しない。
萱島は欠伸を噛み殺し、社長を非難した。
「細かい事は手元の資料読め。以上。さっさと質疑応答に移ります」
言い終えるや、牧がやる気無く手を上げた。
因みに彼の睡眠不足の原因は、決して残業の所為ではない。
「班長代表の牧です」
「知ってます。毎年言ってるけど名乗り要りませんから」
「えー、以前から申し上げて居りますが、事務員の採用を早急に願います。業務内容の幅が広過ぎて、本来の仕事もままならん状態です。社長がやれば良い、死んでくれという意見も多数」
「おい」
「直に新人も入る予定なんで、要らん研修をやるハメになる前の対応をお願いします。まあ後はね、シーズンメモリーの2作目が近日発売予定なんで…さっさと予約しろよお前ら!」
「うるっせーんだよ。引っ込め。事務に関しては今選考してませんで、暫しお待ち下さい」
宣伝を決めた後、満足して牧は席に着いた。
謎のどよめきが起こる。
落ち着いた頃、今度は萱島が手を上げた。
彼は社長からマイクを奪い取り、眠い目を擦りながら口を開いた。
「主任の萱島です」
「要らんっつってんだろ」
「そろそろアラサーの社長ですが…先月のうちの社員の平均残業時間はご存じですか?」
「189.5時間」
さらりと返す社長に対し、背後から強烈な野次が飛んだ。
ブラック!悪徳!等と口々に職員らが詰る。
ともだちにシェアしよう!