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「戸和君、因みに有給消化率は」 「過去最低の1.5%…休日出勤は平均6日で、現在の試算だと年間休日が40切る見込みです」 「だそうですが、社長…何か言う事は」 マイクを手に萱島が迫った。 神崎は一言、爽やかな笑みを湛えて告げた。 「いつもご苦労、社畜諸君」 「……」 萱島は無言で手にしていたマイクを置いた。 そして静まり返ったメインルームの壇上、一片の躊躇も無く社長の腹部にストレートを決めた。 思わず呻き声が漏れる。 反して背後からは、一斉に割れんばかりの歓声が沸き起こった。 空間が妙な熱気に包まれた。 定例会議が野次と声援に包まれ、エンターテインメントと化した。 「…何これ」 自動ドアを潜り、現場を間の当たりにした本郷が立ち尽くす。 「え、何…入る部屋間違えたぞ」 「おお…プロレスですか…私めの幼少時代を思い出します、いつもメインストリートに行けば不良どもがやり合って、いやはや懐かしい光景…何せもう十数年も前の話で、その頃は…」 傍らの巨漢が何やら語り出した。 本郷は一人置き去られ、呆然と掴み合う責任者らを眺める。 頭が痛い。ただでさえ寝てないのに。 「俺、もう帰るわ」 あんな地下闘技場みたいな一画に巻き込まれるのは御免だった。 しかし思い返せば、雇用主の参加した定例会議はいつも戦場と化した。 なんせブラック。 糞ブラック企業と、血気盛んな社畜。 「お帰りですか、参りました。どうも未だ収まりそうにないのに」 「……」 助けを求めて戸和を見た。 携帯を弄っていた。 相変わらず素晴らしいスルースキル。 「カウント入りましたぞ…なんと、このまま決まるのか…?」 ウッドは拳を握り締め、固唾を呑んで見守っている。 壇上では萱島が社長に馬乗りになり、親の仇の様な面で襟首を締め上げていた。 わーい、社長窒息しろ。 ざまあ。 そしてこんな会社、廃れてしまえば良い。 無言で踵を返し、本郷はメインルームを後にした。 自動ドアが閉まりきる寸前、背後から一際大きな歓声が轟いた。 Fin.

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