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B面 てんのかみさまのいうとおり!
「ゆきせんせい、なんでゆうごはんの時間に来たの? クジゴジ、ちこくしたの?
一緒に園長せんせいのとこ、行ってあやまってあげようか?」
夜の給食はチキンカレー。となりにすわった小さい子がこまってるから、「サラダのコーン、カレーに乗せちゃおうか! そしたらスプーンで食べられるよ?」なんてお兄さんぶって面倒みていたら、いつもと違う時間にゆきせんせいがきたから、声を掛けた。
「ねえ、ちこく?」
「遅刻じゃないよ、先生は今日から夜の先生になったんです!」
「えー!クジゴジのせんせいじゃなくなったのぉ?」
やったー!
立ち上がったら、同じテーブルのおチビさんがびっくりしてぼくを見上げた。だって嬉しかったんだもん。こんなに早く、この日が来るなんて!
食事の後のテーブルクロスを拭いて、ベランダに干しに行くゆきせんせいを追いかけた。
「ストップ! 子供は外に出ないでくださーい」
「ハイ! せんせい! あんぜんだいいちです!」
「そうです!『事故なんて起きたらこの保育園はあっという間に閉鎖ですよっ』」
「ぎゃはははっ! ゆきせんせい、今の園長せんせいの真似?」
すごい!そっくり!
「どうしたの? リョウマ君、なにか用事だった?」
「うん。あのね、ちょっといいかな……」
ゆきせんせいは、ベランダの入り口の鍵をかけると、ごはんの部屋にぼくを座らせた。
「ゆきせんせい、ぼくのひみつ、覚えてる? ぼくね、神様の決めた運命の人が見えちゃうの」
「ああ……」
ああ。信じてないな。そうだよね、大人には信じられないだろうね。
出ていったママの話をすると思ったのか、ちょっと怖いみたいな顔になった。
「よく聞いて。
せんせいは、今すぐせんせいのトイレに行って、その寝癖を直しなさい。
それからシャツの襟をピシッとして。わかった?」
「なんだよー。寝癖じゃなくて、みんながグシャグシャにしたんじゃないか。なにが始まるっていうの?」
聞かれても、今はまだ言えない。
「ぼく、小さい子の寝かしつけしてあげるから。しゃんとしてきてね!」と、ぼくは布団を敷いたお泊りの部屋に行く。
せんせいの頭は無造作ヘアどころじゃなく鳥の巣みたいになっていて、ボタンダウンの襟元もすっかりめり込んでいる。鏡を見ればわかるだろう。
なんだかわけがわからないな、と言いながらトイレから出てきたゆきせんせいを見て、一安心。
「……うん!合格」
「なんなんだよ一体…」
もう時計の針は8を指している。もうすぐだ。
「みんなに子守唄歌って寝てもらったよ。もうすぐぼくのパパがお迎えに来るからね。ゆきせんせいは他の仕事しないで、ここに居てね!約束だよ!」
「う、うん……」
いつものようにルービックキューブで遊び始めたけど、ぜんぜん揃えられない。ワクワクして、ドキドキして、顔がニヤニヤしちゃう。
お泊り部屋からは規則正しい寝息が聞こえる。ちょっとの間、お仕事は忘れて付き合ってよね、せんせい。
ドアの開く音がした。
「パパ! おかえりなさい!」
「亮真、おまたせ!」
いいよ、5分の遅刻くらい全然オッケー!
「パパ! ゆきせんせいいるよ! ほら!」
「え? かわいい先生? ……え? 女の先生じゃ?」
ゆきせんせいは慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「リョウマ君のお父さん、今月入りました、幸村です!」
「息子がお世話になっております! 斉藤で……
……ゆき、むら? 稜馬 ?」
「斉藤さんって……えっ?」
やった! やっぱりそうだった。
ぼくには見えるんだよ、天の神様の決めた相手が。
パパの定期入れの、大事な写真に写っていたのは、何年も前のゆきせんせいだったんだね。
驚いてすっかり固まっちゃった二人の間をくるくる走り回り、パパの背広の上着を引っ張った。
「ね? パパ。
ゆきせんせい、パパが大好きな人だったでしょ?」
< かみさまのいうとおり おしまい >
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