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第12話 『call your name.』 -3/E-
「本当にこのショコラで機嫌を直してくれるだろうか……?」
そう、"ショコラ"、だったのだ。
菓子とは……。
基本、俺は食物摂取はどちらでも良いのだ。
まぁ、レオニールに合わせて摂取していた時期もあるが……な。
そしてこっそり向かったレイニードに指定された専門店で見た、茶色い粒はそのどれもが艶やかにそれぞれ魅力的なものだった。
ショーケースに並ぶそれを、俺は一粒一粒確認しながらレオニールに似合うと思われる容貌のショコラを選んだ。
技巧の施された粒をレオニールが持ち、口に含む。
美しいレオニールに溶け込んでいく。
口内で溶けた瞬間、あの仮面の下の素顔を少しでも俺は晴れやかな笑顔に出来るだろうか。
「……レオニール……」
商人の姿になった俺のこの贈り物を……受け取ってもらえるだろうか?
「…………」
塔の用意された自分の部屋から、外の今は何も無い空間を見る。
明日の夜、月下城は商品取引の為に"ここ"に現れる。
……現在、レオニールを主と頂く浮遊する月下城は、今夜はどこに現れているのだろうか。
世界の、どこをレオニールは選んだのだろうか。
レオニールがそこを選んだ理由が知りたい。
レオニールの好みが知りたい。
もっと。たくさん。……全部、知りたい。
「…………」
レオニール、間違えて共に過ごしたあの日々が……
俺が長年求めていた、本当の日々だったなんて。
「―……レオニール」
―……そして、朝に……ならなければ、あの城を去らなくても良いのに……。
「…………」
手に持つショコラは甘い、その甘さがレオニールを知らない俺の思い出を残酷に苦くさせる。
……ショコラの原料のカカオは苦いと聞く。数多の工程を経て、甘いショコラへと作り変えるのだ。
なら、この記憶も……その内甘く変化しないだろうか……?
「レオニール……」
昔も今も、お前だけが俺の中に甘苦い波紋を作る。
「もう、間違えない。……触れる事が出来たら、俺は放さない」
レオニール。
レオニール……。
ああ、名前を呼ぶ度に波紋が出来る……。
「…………レオニール……」
甘く……苦い、波紋が……
……レオニール。
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