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第5話

◆  ゲイバーに勤める男が男の子を誘拐したというニュースはまるで面白おかしく下世話な話題にされていた。俺は誘拐犯を説得して警察に連れて行った友人としておとがめはなかったが、しばらくはマスコミにつけ回された。  ゆうを車に置いていたのは父親で、母親は家を出て行ってゆうと二人で暮していたらしい。車に放置してのパチンコは世間にも糾弾され、なかば育児放棄だったことからゆうは保護されたらしかった。そのうち世間の流れは父親が一人で子育てするのがいかに大変か、様々な社会の仕組みに問題があるのではないか、などという風潮になっていき、そのうちアイドルの電撃結婚の話題に押されてニュースになることもなくなった。  俺は会社をやめ、好きで通っていた定食屋のおやじに頼みこんで弟子にして貰った。今は定食屋で働いている。慶太もよく一緒に来ていた店だから、おやじも慶太のことを知っているし、事情も全部話して今では厳しく色々教わっているところだ。  慶太の裁判は見ていない。厳罰にはならないだろうとは聞いているが、きっと慶太の保育士になる夢は断たれただろう。それも罪を背負い罰を受けるということなのだろう。 そして俺が今すべきことは星に手を伸ばすことだ。 「遊次郎、今日はサバの味噌煮作ってみろ」 「魚触っていいんですか!?」 「まかないだぞ。やってみろ、お前は筋がいいからなあ」 「はい! ありがとうございます!」  これは夢への一歩だ。夢への道は細く厳しい。それでもこれは届かない星なんかじゃないんだ。俺と慶太で掴める幸せという名の星だ。アラサー男の脱サラ夢想なんて笑い飛ばされるようなことを、けれどきっと慶太は笑い飛ばさない。俺の大好きな邪気のない綺麗な笑顔で「すごいね」と言ってくれるに違いないのだ。そうしたら俺の夢がもうひとつ増えたことを教えるつもりだ。 『偶然でもさ、ゆうが俺達の店にきてメシ食ってくれたらいいよな』 きっと慶太は嬉しそうに笑うのだ。「素敵じゃん!」と。 だから俺は夢を叶える準備をしながら待っている。俺の部屋のドアを開けて、ただいまでもごめんでもお待たせでもなく 「遊ちゃん!」  と名前を呼ぶ天真爛漫な挨拶ときらきらの笑顔を。 終

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