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第1話 不夜城の帝王

不夜城と呼ばれる新宿という街には、 様々な人種が生息している ――。 大手デパートや家電量販店が立ち並ぶ一角もあれば、 少し西に足を伸ばすと都庁や高級ホテルなどの 高層ビルが林立する副都心に繋がる。 日本一の歓楽街でもある歌舞伎町を抱くこの街は、 その名の通り24時間眠ることがない。     ココは新宿2丁目、知る人ぞ知る東京のゲイタウンだ。 新宿通りから靖国通りに抜ける、およそ240m弱の 「仲通り(なかどおり)」がメインストリートである。 現在、 約450軒ほどのゲイバーがあるといわれている。 通常のゲイバーや売り専バー、 イベントを行うクラブ、 ゲイグッズを扱うゲイショップ、 同性同士で利用可能なホテルなどが占める。 2021年、3月某日。 新宿2丁目 クラブ『コミットプレイス』 最近ほとんどのクラブが出入り口に 『会員制』のプレートを出し、ノンケ、つまり 好奇心だけでやってくる不埒なお客を 排除しているのに対し、 この人気のクラブはいつもエブリバディウェルカムで 万人を受け入れ、今夜も老若男女、 様々な人で賑わっている。 『―― この店での全てはセッ*スに尽きる』 松浪、西島、迫田の3人は ゲイだ。 HOTな出会いを求め、 週末ごとこのクラブへと繰り出す。 容姿は人並みだがあまり目立つ方ではなく、 積極的にもなれない3人は、 いつもイケメンたちを遠巻きに眺めているだけ。 『オトコは……ストレートの男は、 大体**秒ごとにセッ*スの事を考えている  ―― ゲイやバイは8秒ごと』 ”2丁目の帝王”を自負する神楽竜二。 狙った相手は百発百中、 毎晩好みの男とその場限りの快楽を楽しむ。 愛なんて不確かなものは気易く信じない、 信じるものは体だけ、 恋人なんて面倒なモノは作らないと 公言してはばからない漢。     その店の奥に設けられているVIP客専用の 通称”ヤり部屋” 一夜のパートナーを持ち帰る間も惜しいという 即席カップルが他人の目も顧みず、 行為に耽る場所 ――。 竜二もまた、 さっき声をかけたばかりの男を引き連れ入って来た。 すかさず男は竜二の前に跪き、 彼のズボンのファスナーを下ろして 手慣れた様子でその……を引っ張り出す。 まだ、さほど力はもっていないのに、 竜二のソレは通常の30代男性のモノと比べても かなりの大きさ・太さ・長さがあって。 男は思わずゴクリと生唾を呑み込んだ。 「どう? オレのは合格園か?  お前の口でう~んと元気にしてくれたら、 俺からのご褒美もう~んと弾むぜ」 「ウフフフ……では遠慮なく、いただきまぁす」 男が妖艶な笑みを浮かべ、 竜二のソレをパクンと咥えた時、 松浪が戸口に現れた。 「タイムアップ」 「あと30分」 「俺達を飢え死にさす気か?」 「……じゃ、あと15分だ。表で待っててくれ」 「10分だ。それ以上は待てない」 と、冷たく言い置き、出て行った。          ***  ***  ***     宣言された時間以内に竜二は松浪達の待つ、 店の表まで出て来た。 「―― わぉ! 珍しく時間内に出て来たよ」 「欠食親父救済の為、仕方なくだ」 「今夜はピンクの雪でも降るんじゃないか?」 「フンッ、勝手にほざいてろ」 脱いだジャケットを、 路肩に駐車中の愛車へ放り込み、 さて乗り込もうとした時 ――、 竜二の視界にあるモノが入った。 それは、お上りさんムード丸出しで路上に佇む 20代前半位の青年。 彼は幸か不幸か、 竜二が好んで声をかける中性的な 雰囲気のある青年で。 松浪は竜二の視線が彼に向いた事にいち早く気付き、 落胆の表情を見せた。 竜二が彼の方へ歩き始めて、他の2人、西島と迫田も それに気が付いた。 「おぉ、ジーザス! うそだろ」 「あの子、完璧に竜二のストライクゾーンじゃん」 さて ―― 彼の前へ立ち止まった竜二は……。

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