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終章:終
―――― 3年後 ――――
「ぇえっ!? 上代先輩、今日サークルの飲み会行かないんですか!?」
「ごめんねぇ~ちょっと用事あってさ」
「もしかして彼女ですかぁ?」
「まぁね」
「え"っ! 本当に!? 彼女いるって嘘じゃなかったんですか!?」
驚きながらもまだ食い下がろうとする後輩を軽くあしらいながら、上代は一週間前に突然届いたメールを思い出す。
【来週戻る】
余りの簡素さに初めはイタズラかと疑ったほどだった。それでも。
それでも、誰よりも早く自分に届いたであろうそれに嬉しさは隠し切れなかった。
「なぁんか、昔よりも磨きがかかった気がすんなぁ」
上代は二通目に届いた空港に着く時間だけが載ったメールを確認すると、堪えられぬ笑みを浮かべた。隣では後輩が初めて見る上代の甘過ぎる笑みを見て固まっていたが、もう上代の目には映っていない。
今の上代の目に映っているのは、見上げた青い空と、そして…
飛び立ってから一度も連絡を寄越して来ないようなツレない、けれども誰よりも愛おしい待ちに待った相手だけなのだ。
「早く戻っておいで、次男くん」
上代は歩き出す。
三年前のあの日、聞けなかった言葉を聞く為に――――
遠くで蝉が鳴いていた。
日差しは柔らかさを失い、寧ろ攻撃的ですらあった。
そんな暑さの中でいま鳴いている蝉は、一体いつまで生きられるのだろうか。明日には簡単に死んでしまうかもしれないし、例えもったとしても一週間の命。世界は酷く残酷だ。
だが、それでも世界は回り続ける。
歪みや残酷さを含ませながら、それでも美しく…人々の心を惹きつけ回り続けるのだ。
END
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