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終章:5

「兄弟たちには言うのか」 「ああ、話すつもりでいる」 「三男くん、は」  紫穂は目を閉じる。  瞼の裏で、幼い頃の和穂が笑った。 『シーちゃん! 一緒にあそぼ!!』 「………会えない」  紫穂を殴り付けている所を、騒ぎを聞き付けて集まった人たちに捕まった和穂。暴れるかと思ったそれはまるで糸が切れた人形の様に動かなくなり、そのまま和穂は空っぽになってしまった。  そうして彼は今、真っ白な部屋の中にひとり…孤独と共に閉じ込められている。 「まだ、会えない」  半身だった。  側にいることが当たり前だった。和穂が紫穂を、手放さないことが普通だったから。  それを手放せなかった紫穂は、後戻り出来なくなるまで和穂を追い詰めてしまった。 「今の俺には、手を放すことしか出来ないんだ」  引き摺られてしまう。  いま会えば、和穂の執着に、引力に引き摺られてしまう。また同じ事を繰り返してしまう。でも… 「戻ってくる。情けない自分を捨てて変わる事が出来たら、俺は必ず戻って来る。例え和穂を選べなくても、向き合える様になったら…ちゃんと俺が“俺”として向き合える様になったら。俺が和穂を連れ戻す」 「次男くん…」 「一年か、二年か、もっとか。今はまだ分からないけど、それでも出来るだけ早く戻って来るから、その時は俺、その………かみしっ…」  紫穂の瞳いっぱいに上代が映った。  唇に重なった温度は今までのどの時よりも優しく、二人の間で溶け合った。それを惜しむ様にして、上代がゆっくりと離れた。 「一番に俺んとこ戻って来てよ」 「上代…」 「だって俺、コレでも一応“彼氏”なんだからさ。先に他の男んとこ行かれちゃ立つ瀬無いでしょ?」  ニッと笑った上代に、釣られて紫穂も笑った。 「そうだった。俺、“恋人”居たんだっけな」  クスクス笑えば上代が「忘れてんなよ」と膨れっ面を見せ、また紫穂が笑う。 「いつになるか分かんないぞ? それでも本当に待ってんのかよ」 「待っててあげるよ、俺、優しいから」 「へぇ…じゃあ約束して貰おうか。でも俺たち、腕折れてるからな。指切りの代わりだ」 「え?」  初めて紫穂は自ら唇を重ねた。  今までと違うその温もりに、上代が目を見開き放心するのは、それから直ぐ後の事だった。 「戻って来たらちゃんと言葉で言うよ、上代」

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