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終章:4
「次男くん…」
こんな時に限って掛けてやる言葉が見つからなくて、自分の不甲斐なさに舌打ちをしたくなる。それでも、そんな上代にまるでしがみ付くように頭を預ける紫穂が愛おしくて仕方なかった。
見た目よりも柔らかい、短く切られた髪をそっと撫でれば、その優しい刺激に反応したかのように紫穂が顔を上げた。その瞳に上代が息を呑む。
その先が、見えた気がした。
「上代」
「言うな…」
「俺、」
「言うなって!」
「俺……学校、辞める事にした」
「何でだよッ!!」
上代が椅子から勢いよく立ち上がった。握り締めた左手が怒りで震えている。それでも紫穂の目は上代を捕らえたまま逸らされる事はなかった。
「俺、変わりたいんだ。もう諦めたりしたくない。今のままここにいたら、きっとこの先もまた同じ事を繰り返す。だから俺は、誰にも頼れない、誰も俺を知らない…家族のことも知らない場所に行く」
紫穂の目は真剣だった。先ほどまで泣いていた頼りない、幼いままの目ではない、本気の目だった。
「……本気か」
「ああ」
「もう、決めたのか」
「父さん達にも話した。退院でき次第、留学する」
上代がガタンと椅子に体を落とす。それは座ると言うよりも脱力に近かった。
「次男くんはさ…やることがイチイチ極端なんだよ」
「諒くんにも同じこと言われそうだ」
上代の呟きに紫穂は思わず笑みをこぼした。
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