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終章:3

「ずっと考えてた。こんな狂った世界、誰が回してるんだろうって。けど、今なら分かる。諒くんの世界も、由衣の世界も、和穂の世界も……全部、俺が狂わせて回してた」  紫穂はそっと目を伏せた。 「今朝、電話で両親と話したんだ」  自分を愛していないはずの両親は、紫穂が目を覚ましたと連絡を受けて涙を流し喜んだ。どうやら三日ほど前までは病室に詰めていた様だが、仕事の都合で再び海外へと飛んでしまったそうだ。 「何度も泣きながら謝られた。『守ってやれなくてごめんね』って、父さんにも、母さんにも」  両親は由衣の異常さに気づいていた。あの“溺愛”と見えた二人の態度は、ある意味で監視の様なものだったのだ。諒と和穂の異様な距離感にも気付いていたが、そこは由衣とは違い危険性が無いと判断したのか諦めていた様だ。  単なる恋愛ならば、例えそれが兄弟同士であっても自由にさせてやるしかないのだと…。  両親は会社を紫穂に継がせたいと思っていた。それは諒と相談して決めたことだった。この特殊な学園へ紫穂を入学させる事はとても不安であったが、この学園出身であることは将来間違いなく有利になることと、諒が教師として学園に居ることが決め手となり…そうして両親は諒に紫穂を託した。 「だからあの時、長男が直ぐに引いたのか」  上代が紫穂と恋人となったと伝えたあの玄関前での出来事の後、諒は直ぐさま会社の対処へと移った。あの時の動きにてっきり長男は会社を継ぐ意志があるのかと思っていたが、実際は全て紫穂の将来の為だったのだ。  紫穂の目から涙が落ちた。 「何も知らなかった。知ろうともしなかった。一人で被害者ぶって、悲劇気取って!」 「次男くん」 「あの時、由衣は和穂から俺を庇ってくれたっ、諒くんは俺を逃がしてくれた! 和穂はっ! …全部俺が悪いんだ、全部全部俺が可笑しくさせた! 俺がッ!!」 「次男くんっ!!」  上代は自身の左肩に紫穂の頭を何とか引き寄せた。  紫穂の頭には痛々しく包帯が巻かれており、体中怪我だらけだから無茶が出来ない。上代自身もまた右肩を怪我していて上手く動けないのだが、今はそれが酷くもどかしかった。  力一杯抱きしめてやりたかった。痛いと紫穂が怒る程に、両手で強く強く、抱きしめてやりたかった。

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