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第1話
「好きだ!」
…今、告ってきたのは「言葉使いが乱暴な女子」ではない。
身長180センチ、体重70キロの俺とほぼ同じ体格(身長はヤツのほうが5センチほど高いが)、頭の出来も県内トップの進学校である我が高校で、お互い真ん中よりちょっと上、何より体育会系中の体育会である柔道部員という紛うことなき男であり、親友の広川廉(ヒロカワレン)である。
もちろん俺、深見慶生(フカミヨシオ)も「大柄な女子」ではなく、剣道部で日々鍛えている筋肉を身にまとった正真正銘男である。
「え…っと?」
思いもかけない告白に二の句が告げないでいると、廉がいきなり抱きついてきた。
「慶生!好きだ‼︎」
「待て、待て、待て!」
この時点ではまだ冗談だと思っていたので、このまま大外刈りや大内刈りに移行してしまいそうな恐怖心から、廉を無理矢理引き剥がした。
部員たちはみんな帰り照明を落とした薄暗い道場は、外からかすかに聞こえる蝉の声がシンとした静けさを引き立たせていた。夏休み明けの暑苦しい道場で、ふたりの周りだけ空気が凍り付いたように固まり、さっきまでダラダラかいていた汗も一気にひいた。
「マジか…?」
人生最大のピンチはこうして始まった。
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