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美しい人

◇  焙煎された豆の芳ばしい薫りが包む店内。白い髭を蓄えたマスターは珈琲に命を掛けているのだろう、一つ一つの行程作業が丁寧だ。  昔ながらの古風溢れる店内も、味がありシックだ。その静かな店内には、外回りの営業マン風の男や、常連らしき客が三、四人、各々静かな時を過ごしている。  高田 正典は初めて訪れる喫茶店で一人、落ち着きなく視線をさ迷わせていた。約束の時間までにはまだ三十分程ある。 「ふう……」  高田は軽く溜め息を吐き、手持ち無沙汰に煙草でも吸おうかと、スーツの内ポケットに手を差し入れた時、カランカランと軽やかにドアベルが鳴った。ボックス席で入り口に背を向けて座っている高田は、条件反射で入り口へと振り返った。だがその瞬間に高田の双眸は大きく見開かれる。  身長は175センチくらいだろうか、細身でスラリとした体型は、足も長くスーツ姿もまるでモデルのようだ。こちらへと歩いてくる姿も品がある。誰かを探すその視線が高田と合うと、その人物はゆるりと口角を上げ微笑んできた。その表情に、高田の首までもが熱をもつ。 「失礼ですが、高田様でしょうか?」 「は、はい! 高田 正典です!」  慌てた高田は裏返った声でフルネームで答え、腰を上げた。 「お待たせしてしまったようで、申し訳ございません」  深々と頭を下げる男に、高田は再び慌てる。 「い、いえ! 私もさっき来たばかりですし、約束の時間にもまだ三十分程ありますので」 「そうですか。それは良かったです」  男は苦笑を浮かべ「失礼します」としなやかに高田の正面に腰を下ろす姿は、ただそれだけの事なのに色気があった。  目の前にいるのは紛れもなく男だ。それなのに高田の心臓は早鐘を打ち、落ち着く事が出来ない。二十三年生きてきた中で、これ程までに美しい男を見たことがあるだろうか? 芸能人でもここまで整った美貌はいないだろう。  年は高田と同い年か少し上に見え、髪はクセのない少し長めのダークブラウン。きっと染めてはいない天然の色だ。  男の割には白く、陶器のような滑らかな肌。切れ長の目に綺麗に沿う彫りの深い二重瞼。高過ぎない鼻の筋は綺麗に通り、唇は薄すぎず仄かに赤く色づいている。男に色っぽいという言葉が適切なのかは分からぬが、見る者の心が奪われる程の艶やかさがあるのは間違いなかった。 「この度はご依頼ありがとうございます。成海 佑月(なるみゆづき)と申します」  爪の先まで綺麗に整えられた細い指で、成海と名乗った男は高田へと名刺を差し出した。

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