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  風は走る────。 そう呟いていた男は僕を押し倒した。 「………や、………め、………て、………ください……!」 悲鳴にも近い声で僕は叫ぶが、その男は僕の唇を口で塞いで僕を犯しだした。 ソレが僕こと頼艷黎(らい よしのり)と張雪梅(ちょう せっか)の初夜だった。 そして、僕はその日以降、張雪梅の下係りとして雪梅に買われた。 残忍で冷酷な雪梅は純血の吸血鬼らしい。らしいというのは、僕が雪梅にそう聞いてそう答えを貰っていないからだ。あくまでも僕の憶測である。 「れい、おいで………」 雪梅が僕のことをそう呼ぶのは、黎明期にあたる年に僕が生まれて、僕の名にもそのいち文字が含まれているからだろう。決して、女の子みたいな容姿でなよなよしているからではないと思う。 「ん?なに?」 朝食の支度をしていた僕は、そういって僕を呼び寄せる雪梅に首を傾げる。能面みたいな真っ白な顔の雪梅は無言でココに座れとばかりに自分の太股を叩いて、首を傾げる僕を手招きしていた。 「雪梅、僕、いま物凄く忙しいの。みてて解らないの?」 僕は雪梅の出勤時刻が刻々と近づいているのを、壁にかかっている時計の針を指差しながら雪梅に説明すると、雪梅は少しばかり眉根を寄せた。ああ、コレは完全にヘソを曲げたと僕は肩を落とす。いまから機嫌を取っても遅刻はまのがれないなと横目で執事長をみると、執事長は畏まりましたという感じで僕に頭をひとつ下げるとさっさと部屋からでていってしまった。 こういう気配りはできるのに、家事はなにひとつ手伝ってくれないと僕はひとりごちる。ソレはココに引っ越したときから解っていたことだが、コレ以上僕の仕事を増やさないで欲しかった。そう、アレほど雪梅専属のメイドがいたのに、執事長は誰ひとりそのメイドをつれてこなかったのだ。なんか雪梅のことは僕しかやってはダメだという感じで、執事長もまったくノータッチなのである。 ココがあの大きな屋敷だったら僕もキレていたところだが、幸いにも雪梅の思いつきでこじんまりしたいっ戸建てのココをいっ括購入してくれたからまだやっていけているが、ソレでも不馴れな僕が家事を仕切るとなると毎日がてんてこ舞いなのだ。 ああ、コレは余談であるが、もと住んでいたあの大きな屋敷は執事長が管理しているようで、いつでも戻れるようにはなっているようなのである。金持ちの豪遊は半端ではないと聞いていたが、ココまで豪遊だと流石に気が引ける。 僕は金持ちの道楽はよく解らないとちらりと雪梅をみるが、雪梅は僕から言葉を発するのをずっと待っているようだった。どんだけ頑固なんだと思いながらも、僕は雪梅の世話係りとして(雪梅を無事に会社に送りだすことも僕の務めだから)渋々こう訊く。 「ゴメン、雪梅。僕に用ってなに?」 と。雪梅は潜めていた眉根をもとに戻すと、少しだけ機嫌を治して口を開いた。 「今日は会議があるから、夕食は外でしようと私はれいを外食に誘いたいんだよ」 解るだろうともういち度、雪梅は自分の太股を掌で叩く。僕は、「ああ、なるほど」と手に持っていたナイフとフォークをテーブルの上において、雪梅の太股に股がった。雪梅と対峙するように座るのはコレからする行為のためで、決して僕がそういう趣向を持っているワケではない。 僕は上目使いで少しだけ腰を浮かして、僕の股間を雪梅の股間に押しつけるようにするとその腰を雪梅に擦りつけた。ゆっくりと息を漏らしながら、甘くうねるように目の前の雪梅に媚を売る。 「ねぇ、今日は遅くなるの?」 僕は大きな瞳を細めてうっとりとした視線を雪梅に向けると、雪梅の唇に舌を這わすような舐めるキスを落としながら、雪梅が望みそうな甘くっていまにもゆだりそうな言葉を発した。すると、雪梅はとても嬉しそうに切れ長の目を細める。 「ああ、悪いな。だが、その詫びとして今日は外で食事をしよう。いつもあの店で私が来るのを待っててくれるかい?」 僕は舌をもういち度つきだすようにして、雪梅の口の中にその舌をねじ込んで、小さく頷いた。 「うん、解った。雪梅が来るの、首を長くして待ってる」 雪梅はよく出来ましたというように僕がねじ込んだ舌に吸いつくと、さらに深くソレに喰らいつく。舌が引きちぎれそうなくらい吸われるのに、僕は尽かさず雪梅の首に腕を廻してソレを受け止めた。荒い呼吸が肺まで届くが、雪梅は僕に構いもなくもっと荒く息を吹き込む。ねっとりとした唾液が僕の口端から垂れ落ち、糸が引くようなドロッとした熱いキスなのに、僕の心だけは凍りついた氷のように冷たくなってその先の行為に怯えていた。なのに。 「………んっ、……せっか……、………し、よう……」 僕は雪梅にその先の行為を求める。心は凍った氷のように固まっているというのに、この先の行為が物凄く嫌で怖いというのに、僕の身体は雪梅が物凄く欲しくって物凄くしたっく疼いているのだ。 そう、雪梅に躾られたこの身体はもう僕の意思とは関係なく、雪梅とのセックスを求めているようなのである。    

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