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  「でも、れいは痛いの嫌いでしょう?」 泣かないでとさらに困った顔をする雪梅に、僕は押し黙ることしかできなかった。雪梅はそんな僕を諭すように言葉を続ける。 「ソレに、れいの身体に私のモノだっていう刻印を刻んだとしてもそう嬉しくはないでしょう?」 当然だ。僕の好きなのは、僕に執着しまくるあの雪梅なのだから。 「…………」 そして、なにもいい返せれない僕に雪梅は優しくこういうのだ。 「れいは私のことを好きだっていうけど、ソレは私であって私でない。ソレくらいは私でも解るよ」 れいが好きなのは誰だい?とバスルームに備えつけられているビデに下ろされた。こういう展開になっても、そういうことを中断しない雪梅はあくまでも僕を悦ばせたいようだ。 そんな僕は重たい口を開くとぼそりと呟く。 「………雪梅…………」 僕の喉の奥からでてくるその名は彼自身の名前かもしれない。だけど、ソレは雪梅あって雪梅ではないのだ。 だから、雪梅はそうと応えて、無表情の顔のまま僕の服を脱がし始める。こういうところはあの雪梅といっ緒だから、つい心が踊りだす。もじもじと小さく身体を捩らせて、僕は早く触って欲しいと目の前にいる雪梅に媚びていた。 雪梅は眉根を潜ませることなく、どう触って欲しいの?と僕に訊く。あくまでも、彼は僕に忠実であってあの雪梅ではなかった。雪梅の好きなように触って。僕がどうすれば悦ぶか知っているでしょうと僕は雪梅の首に腕を廻して、雪梅にキスをする。 こういうふうに僕が雪梅に求めるのは、あの雪梅が悦ぶこと。けっして、目の前にいる雪梅が悦ぶこととは思えなかった。 ソレなのに、雪梅は口端をあげて解ったと応じるのだ。ソレがなによりも残酷なことだと解っていても彼は僕の心をじわじわと追い詰める。 「………っか、………すき……」 大好きと無意識に溢れる言葉に、僕の心は冷たく凍りそうになっていた。雪梅に逢いたい。あの雪梅に逢いたい。傲慢でわがままで、僕のことなんかちっとも考えてくれないあの雪梅に逢いたい。 「れい、もう泣かないで……」 私が悪かった。意地悪をして悪かったからと僕にキスを落とす彼はあの雪梅だった。嘘でしょうという顔をして顔をあげたら、深くキスをされて、舌を絡め取られた。んっと鼻から抜ける声があがって、僕は必死に雪梅にしがみついていた。 甘くって熱い舌が僕のすべてを包んでいく。冷たかった凍えた心までもが、もう目の前にいる雪梅しかみていなかった。 「………っか、……ぜっが……、……ぜっが……ずき…」 鼻水を垂らしておいおいと泣きだした僕に雪梅がまた口端をあげて嗤ったような気がしたが、僕はもうどうでもよくなっていた。  

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