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  雪梅の番になって、結婚はいち年後という約束で婚約だけした僕は雪梅の屋敷で世話になっていた。 「いっ戸建てでございますか?」 そう眉間にシワを寄せる執事長を、僕は下から睨みつけてそうだよと頷く。夢の中では僕と雪梅はいっ戸建てに住んでいて、僕が雪梅の世話をしていたのだ。天夢が産まれるまではそういうスタイルで生活をしていたとはさすがにいえないから、僕は必死に我を通す。 「………ですが、艷黎様──」 「黎だよ、間違わないで。セバス!」 僕はさらに眉間にシワを寄せて、怒鳴る。呼び方ひとつで環境が変わってしまったら、天夢の存在が危うくなってしまうから。たぶん普通に考えて、天夢は僕の遺伝子だけで十分にこと足りることなんだと思うけど、育つ環境が異なればソレはあの天夢ではなくなってしまう可能性があるのだ。 「もう決めたの!雪梅もイイっていった!」 ソレでも、文句があるのと執事長に噛みつけば、執事長はなにもいわなくなった。 「解りました。では、数人のメイドを──」 「要らない!セバスだけでイイ!」 僕が雪梅の世話をするといいだすとまた執事長が困った顔をする。将来の奥方にそのようなことはさせれませんと顔に書いてあったが、僕はだからでしょうと雪梅の妻になるのだったらソレくらいできなかったら恥ずかしいというと、執事長は渋々だが承諾をしてくれた。 「悪いな、セバス。れいはいち度いいだしたら絶対にきかないから」 頑固なんだと嘆息をする雪梅をみて、僕は急いで雪梅の腕にしがみつく。 「雪梅、雪梅も僕に甘えてイイんだよ?ほら、こうやってココの部分をこうやって潜めてさ、もっと僕に焼き餅妬いたりしてイイんだよ?」 そして、雪梅の眉根を人差し指で触れて僕に我が儘をいえとかなり強引にでたら、雪梅は物凄く困った顔をした。 「ああ、ゴメン。そういうつもりでいったワケじゃないから」 そういって僕の頭を撫でて、「率直で素直なれいは愛らしいよ」と僕の唇にキスをする。僕のご機嫌を取るのはコレに限ると思っているらしい雪梅に、僕はむすっと不機嫌な顔をした。 「ん?気に入らなかった?」 僕の脇に手を入れて僕を持ちあげると、雪梅は僕の身体を壁に押しつけた。そして、情熱的に僕を見つめると先のキスよりも熱く深いキスをする。 「───っん……、らぁめ……」 我慢できなくなると僕が雪梅の首に腕を廻すのを待っていたように、雪梅はもっと深く唇を重ねあわせてきた。甘い味は夢の中の雪梅と同じで、身体の芯が疼いて仕方がなかった。ゆるゆると腰が畝って僕は股に差し込まれた雪梅の太股に、僕の男根を強く擦りつけていた。 「ふふっ、れい、どうしたい?」 なにをどうされたいのかもう解っているのに、雪梅は意地悪くそう訊く。頭も心も身体もこの続きを望んでいるから、僕は素直にされたいことを口にするのだが、その言葉はいつも雪梅の口の中に消えてしまっていた。 「……たい………」 すると。 「ソレでは、私は下がらせて頂きます」 執事長は相変わらず空気が読める男でさっさと部屋からでていった。こういう気配りはさすがだと関心する反面、いまの僕は雪梅のキスでとろとろにされているから必死に雪梅にしがみついていた。 「ココ、綺麗にしようか?」 僕の蕾を指先で突っつかれて、僕はそうしてとこくこくと頷いた。雪梅は僕の身体をさらに抱えあげると僕にこう訊く。 「されるの、好きなの?」 と。たぶん手馴れたふうにイヤらしいことを平気で促す僕のことが、不安なのだろう。だから。 「…………っかだから、して欲し………い……」 そう応える。だって、いつも僕にしてくれていたでしょうとは口が裂けてもいえないから、僕は僕が知りうるありったけの言葉の中から雪梅が喜びそうな言葉を選ぶのだ。だが。 「嬉しいけど、そういうイヤらしい言葉って本当に誰に教えて貰ったんだい?」 バスルームに移動する雪梅の顔が物凄く歪んだのが解った。コレは嫉妬だと解る眉根を潜ませるアレとは違って、なんだか悲しくなる。 「………っか、………僕が淫乱なの……嫌い……?」 「……………」 黙り込む雪梅に僕の方も不安になる。夢の中の雪梅はなんでも口にした。こうして欲しいとか、ああして欲しいとか、とにかくなんでも。 「………困らないで!───僕は雪梅以外とはしてないし、したいとは思わない。こういう言葉だって雪梅が喜びそうだからいってんだよ!」 僕にもっと嫉妬して、僕を困らせてよ!ほら、僕を束縛して、もっと僕が好きだって、誰にもあげたくないっていってよ! そうハチャメチャなことばかりをいって、僕は雪梅を困らせるばかりだった。心が苦しくなって、僕は思わず本音が溢れそうになる。 夢の中の雪梅の方がよかった、と。  

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