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目が覚めた僕は身体の異変に気がつく。身体が熱を帯びたように熱かった。
「気がついたかい?」
そう僕に声をかけてきたのは雪梅ではなく、父様だった。僕は起きあがりながら、ゆっくりと部屋の四方をみ渡した。
「父様?」
雪梅といっ緒にいたハズだったから、どうして父様がココにいるのかが解らなかった。僕は父様をみ据えて、雪梅は?と聞こうとしたら頬にカッと弾ける熱と痛み、そして、軽やかな音が走った。
なに?とみあげる僕に父様は解るだろう?という怖いという顔をしたら、もういち度僕の頬にカッと弾ける熱と痛み、そして、軽やかな音が走った。僕はもう呆気に取られた顔で父様の顔をみると、父様は壊れた人形のように同じことをなん度もなん度も繰り返してきた。だから、往復ビンタなんて、可愛いモノだと僕はこのとき初めて知った。
タダ、コレは父様の優しさなのか、拳では殴られなかったから、青タンだけはできなかった。とはいうモノの、僕の頬はおたふく風邪のように膨れあがって、僕の顔の輪郭は崩していた。ソレでも僕は呆然と父様の顔をみあげるだけで、父様もまた打つことをまったく止めようとはしなかった。
腫れあがった頬が、もうコレ以上無理だと悲鳴をあげようとしたときだった。ドア向こうから、声が聞こえてきた。ソレが雪梅だと解ったが、父様の手は止まるということを知らないようだ。
僕はようやくソレで、父様の行為が恐ろしいモノだと判断したらしく、ドア向こうの雪梅に助けを求めていた。
「………っ!!!………だずげで!!」
ぜっが!!と僕の声がでる最大の声で叫ぶと、父様の口端があがった気がした。
「はい、合格♪」
ソレはもう軽やかに、そして、なにもかもなかったように、もう唐突にだ。あんなに怖い顔で僕の顔を打っていた父様の手が止まって、その父様は僕の上から飛び退いた。
僕は夢中でドアまで走って、ドアにかけられた鍵を開けた。すると、ドア向こうから雪梅が凄い形相で入ってきた。僕は、その飛び込んできた雪梅に飛びついて「ぜっが、ごぁわがっだ」と泣きついた。
だから、凄い形相の雪梅が怖いということはまったくなかった。逆に、僕のことを心配してくれていることがとても嬉しかった。
おいおいと泣いている僕を雪梅は抱き上げる。その雪梅が、父様に物凄い勢いで文句をいっていたのはいうまでもないだろう。
そのいち時間後、僕は腫れあがった顔を氷水で冷やしながら、雪梅の膝から退こうとはしなかった。そして、父様にだされた紙にさっさと名前を書いて僕はようやくいまの状況を把握するのだった。
僕はまだ十七歳で、雪梅と初夜をともにしたあの日だということ。だから、天夢も存在していなし、妊娠もしていなかった。僕の妊娠も僕の虚偽発言であると判明して雪梅は落ち着いたらしい。
「わがっだ。ぜっがどわづがいになるじぃ、げっごんもずる。だげぇど、うぇでぃんぐどれずわぜっだいにぎない。ぜっががぎで。あど、ざいじょのごわでんむっでなまえだがぁんね!」
膨れっ面でぶつぶつとそういうのは、僕が雪梅のことを嫌って番も結婚もしないと駄々を捏ねていたことを思いだしたからだ。ソレなのに、雪梅の膝から退こうとしなかったのは、雪梅が僕の要求をあっさりと呑むからだろう。
「ああ、構わないよ。れいの好きにすればイイ」
雪梅は僕のうなじにキスをして、カプリと犬歯を立てて噛みつく。いだいよ!と僕は怒るが、コレでなん度目になるか解らない雪梅の噛みつきを僕は許していた。父様は苦笑いをして、コレは大いに尻に敷かれるだろうなと嘆息をしていた。
「ぞぁど、がぁんぎんもごうじょぐもぎぁい!ずるぅんだぁだら、ぜいがんがいぃ!わぁがっだ!」
「………え、そうなんだ………。青姦は、私の趣向ではないけど頑張ってみるよ」
雪梅は自分の性癖をいいあてられて驚いたようだったが、僕との結婚条件がそんなことなら安いモノだと思ったらしい。
「ところで、なにがきっかけで雪梅くんのことを気に入ったんだい?」
父様までもが僕に遠慮がちにそう訊くのは、僕がまったく首を縦に振らないことに痺れを切らして無理やり雪梅の番にしようとしていたからだろう。いくら大金に目が眩んだとはいえ、施設の子供を売ったりするのはどうかと思う。しかも、思いっきり嫌われようと思いっきり打つなんてあり得ない。
「なんだっでイイでじょう!」
僕は腫れた頬をさらに膨らませて、外方を向く。そう、アレがすべて夢だったとしても、僕はもういち度天夢に逢いたいと思ってしまったのだから、仕方がない。
「秘密ってこと?」
気になるという顔を雪梅はするけど、僕はソレ以上訊くならこの話はなかったことにしてもイイんだけどという顔で雪梅を睨んだ。すると、ソレは困るという顔で僕の唇にキスを落とす。
「ゴメン、もう訊かないからそんな顔をしないでくれないかい?」
「んっ、わがっだ。ぜっが、あいじでる……」
父様がみているというのに、僕はそういうと雪梅の首に腕を廻して深いキスを求める。求められるこういうキスは嫌いじゃない。愛されているという実感が持てて気分がとてもよくなるから。
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