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第1話

俺と遊木(ユキ)が出会ったのは高1の夏の終わりだった。 うだるような暑さの中、ふと目があった派手な男子生徒に「似てねぇな」と、言われた。 言われ慣れた不愉快なセリフに眉に皺を寄せて返したのが初対面だった。 髪を金髪に近い茶髪に染めて、いかにも明るい性格を表すような適当な喋り方、姉と同じ種類の人間だと感じた。 男は俺の教室の誰かにしゃべりかけられ、そっちへ歩いていく。 俺はそいつが姉と付き合いはじめた、隣のクラスの遊木梓(アズサ)だと噂で知った。 姉は明るく染めたストレートの長い髪で、化粧いらずの派手な顔で、ゲラゲラといつも楽しそうに笑う魅力的な女だった。 俺は、と言えば似ているのは色の白さくらいで、 一重の目に黒ぶちメガネをかけた冴えない男で、 姉が垢抜けさせようと無理矢理染めようとした髪を断固拒否した地味で目立たない男だった。 似てないなど小さい頃から言われすぎて似もしないのに似せようとすることなどしなかった。 姉にコンプレックスを感じないわけではなかったが、両親は地味で控えめな人だったので、なぜか姉は捨て子で自分が両親の本当の子だと小学生で思い込んでいた。 派手な姉は中学の時から男が絶えず、高1のころなんてさも解禁といったように中学の時の教師と付き合っていた。 姉の武勇伝なんて丸一日かけてもしゃべり尽くせない。 そんな姉が遊木と付き合い始めたのは、彼の人目を引く容姿と軽い感じの適当な態度に姉が興味を持ったせいだ。 周囲も納得するようなお似合いの二人だった。 姉は遊木みたいないかにもな男が好きで、自分が興味を持ったら積極的だった。 弟と同じ学年だろうが気にもせず、同年代の男と別れて年下の男に夢中になった。 遊木は人気のある美人な先輩に言いよられて断る理由なんてないだろう。 相手は経験豊富な年上の女、有頂天になったにちがいない。 姉と遊木は体育祭のあとで付き合い始めた。 二人が一緒に下校する光景がよく目撃されていた。 「梨沙子(リサコ)さん、昨日遊木とラブホ行ったらしいぜ」 昼飯を一緒に屋上で食ってた橋村(ハシムラ)が話し掛けてくる。 俺は惣菜パンを食べながらどうでもよさそうに答える。 姉と同級生のセックス事情なんて聞きたくもない。 「……へぇ」 「4組のやつが見たって騒いでる」 「……」 「…渉(ワタル)、お前童貞だよな?」 ずばりそのとおりだ、流藤(ルトウ)渉いまだ彼女おらず、姉の梨沙子と正反対の人生を歩んでいる。 黒ぶちメガネをひからせながらながら橋村晃也(コウヤ)にしゃべりかける。 「お前だってそうだろ?」 「ああ。……ただ思うよ、別世界の話しみてぇ、すげーなって」 あほっつらで橋村がつぶやいている。 橋村はおれと同じで地味で純朴な人間だ、バスケットをしているが背が低くいまいち活躍できない。 俺は今一番仲の良いこいつに先を越される以外は別にどうだってよかった。 姉とは違う、俺は俺。 橋村がペットボトルをパコパコやりながら、彼女がほしいなどと1人ほざいている。 俺はパンをかじりながら、橋村の独り言を聞き流していた。合コンのお誘いどころか、女子がしゃべりかけてくることもめったにないこの状況で彼女など夢物語だ。

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