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第2話
俺は積極性もなく、ただのんびりと過ごしていた。
姉の恋人の遊木が目につくようになっても、別世界の彼と言葉を交わすわけもなく、ただあの初対面をかぎりに噂の的の彼と口を利いたことはなかった。
姉が俺のことを可愛がっているのは周知の事実でかなり迷惑なことに遊木に会いに来たついでに隣のクラスの俺を覗きにくる。
有名人の弟のように先生には期待され高校からの友達には、好奇な目でみられ、そして俺はなんのことはなくそれを裏切る図太い神経を持っていた。
県内ではそこそこの進学校で、成績上位の頭の良い姉とそこそこの俺。
嫌がらせのように、弟の渉と紹介する、優秀な姉はなぜか俺が好きだった。
それは昔から、あんたは強いねと俺を誉める姉の本心だとポジティブにも思っている。
およそ姉は嫌いな人間に愛想を振りまく優しい女ではないからだ。
放課後、姉が教室の窓から渉と呼び掛けてくる。
後ろには遊木が明後日の方向見ながら立っている。
「あんたも一緒に帰る?」
たわごとだ。
「いやだ」
無表情でいうと姉は笑って遊木の腕をとり手を振って去っていった。
黒ぶちメガネを光らせながらそれを見送る。
今日の姉はご機嫌だ。
大方俺の話でもしているんだろう。
姉と付き合えて遊木はラッキーだ。
不相応だが俺は姉のような女に恋をするだろうと思っている。
姉は俺にとって自慢で、冴えない俺が人目を集める唯一の理由だった。
梨沙子先輩の弟、それが俺だった。
卑屈になんてなりたくなかった
…………が、
姉がいなくなって、俺の存在はかすれた。
突然のことだった。
ちょっとコンビニに行ってくる、と言って出かけた姉はそのまま帰って来なかった。
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