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第3話

夜の交差点、赤信号で突っ込んできた無灯火の車は100m以上も姉を引きずった。 顔の判別なんてできる状態ではなく、死体を見せられた両親は2日経っても信じないと言い続けた。 3日が経過し、死体の状態も良くない中で警察がDNA鑑定を申し出ると、さすがに両親もしぶしぶ折れた。 顔がわからないだけで実の娘がわからないわけがない。 手も足も服も明らかに姉の“もの”だった。 俺はすぐさま遊木梓に伝えに行った。 テレビのニュースで知るよりは先に伝えてやりたいと思った。 だって、きっと姉は家族の次に彼を大切に思っていたから。 遊木はしばらく茫然として それから 「……そっか。……ありがとな、教えてくれて」と言った。 俺は初めて遊木にいいしれぬ親近感をもった。 「渉、飯くお」 「おう」 高3の春、空き教室で昼飯を食いながら、遊木と隣り合っている。 姉の葬儀が終わると俺は変わった。 遊木が俺にちょっかいを出してきたのは、ただ姉の死を分かち合える人が欲しかっただけだと思う。 言い知れぬ喪失感が、身体中を寒くさせるほどぽっかり穴をあけている感じだった。 姉の死はすべてを変えた。 葬儀は姉の人望をうかがわせるような参列者の長蛇の列だった。 若くしての突然の不幸な死にみんなが嘆いた。 両親は愛する娘を失って生気を無くしたように、日々を過ごし、俺は荒れた。 断固拒否していた髪を茶髪に染め、メガネをやめコンタクトにし、高2になって急激に伸びた背に軋む身体を支え授業をサボり、姉の面影を追いかけた。 不真面目なくせに真面目な姉を思い、両親の憔悴を思い、俺は、姿形さえかわれど真面目な根本は変わらなかった。 姉がいなくなった今、無意識に気にしたこともなかった、いや、たぶん姉とは違うと反発していた成績上位に興味をもっていた。 今までは中の中、もしくは下でも、教師の期待を裏切ることのほうが優先されていたような気がする。 その証拠に、ちょっと努力をしただけでトップテン入りを果たすことができた。 頭が良いのは似ていたみたいだ。 成績上位になると教師の目が変わり、やはり血はあらそえないとおべんちゃらを並べ立てる。 今まで興味の対象でなかった俺に興味を向け期待と打算をぶつけてくる。 姉が感じていた重圧を感じる。 もともと地味でめだたないことを望む俺は教師の熱い視線と態度に死ぬほど嫌気がさしていた。 姉は他人の打算にまみれて、頑張っていたのではないか、無駄な思い巡らせると、授業も教師にもうんざりした。

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