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オマケ後日談ーHappy birthday!4/4ー

「……噛んでもいいよ……」 松本は目を見開かせた。 ベッドに俯せになってシーツに沈む裸身にぴったり覆い被さり、腰から下を絶え間なく波打たせ、紅潮した首筋に先程から頻りに唇を彷徨わせていた。 自身の欠片で温む仮膣の心地よさにペニスを始終浮かれさせて。 加減を忘れて連打したり、もったいぶったロングストロークで抽挿させたりと、緩急をつけたピストンに夢中になっていた。 ただ痕はつけないようにしていた。 後でこっ酷く注意されるから。 「噛んでいいの……?」 まるでおばかなワンコみたいな問いかけだった。 真っ白な枕に片頬を埋めていた久也は思わず笑ってしまった。 「……どうぞ、君の好きなように」 「久也さん」 夜が深まっていくにつれ、落ち着くどころかどんどん加速して勢いづく欲望。 醒めやらない興奮に朦朧としながらも下半身は目覚め続けている松本に呼号され、久也は、ずれた眼鏡越しに年下の恋人を微笑まじりに見上げた。 「……私にも君を充電させてくれ……」 「首が千切れるかと思ったぞ」 「そんな大袈裟な。肉食獣じゃあるまいし」 日曜の正午過ぎ。 それぞれシャワーを浴びた松本と久也は二・五人掛けの布張りソファに並んで座っていた。 「昨日渡すつもりだったんだが」 首筋に深々と刻みつけられたキスマークを隠したく、襟つきのシャツをわざわざ羽織った久也は、シックなモノトーンの小さな紙袋を松本に手渡した。 「指輪ですか?」 「残念ながら違う」 久也の部屋に常備してある自分の服に着替えていた松本は、シルバーのリボンを解き、ダークブルーの包装紙を丁寧に外し、ケースの蓋をぱかりと開いた。 時計だった。 ブラックの革ベルトに白糸のステッチ、アナログ表示で黒文字盤に白の針とアラビア数字、遊び心が感じられるミリタリーテイストのデザインであった。 「職場でも休日でも使えるかと思って」 プレゼントをまじまじと眺めていた松本だが。 急に久也の方へ腕時計を差し出してきた。 「……気に入らなかったかい」 受け取った久也がやや気落ちした声でそう言えば首を左右にブンブン振って、今度は自分の左手を目の前に突き出してきた。 「つけてください」 一瞬、久也はまごついた。 しかし気を取り直し、意気揚々と片腕を伸ばす松本の左手首に腕時計をつけてやった。 「恋人につけてもらうなんて結婚指輪みたいですね」 「どう見ても腕時計だ」 「いつか二人で買いにいきましょう」 「腕時計をか?」 「指輪に決まってます」 腕時計をつけてもらった左手首を顔の前に翳し、満足そうに眺めている松本に、久也は自然と笑みを零す。 「久也さんのご両親にはいつ挨拶にいけばいいですか?」 くるりと顔を向けたかと思えばそんなことを言われて、また、まごつく羽目になった。 「そうだな、それは追々、それよりも先に君のご家族にーー」 「久也さんを僕に下さい、必ず幸せにしますって、そう言いますね」 久也は……吹き出した。 「え。ひどいです。人が一生懸命考え出した台詞なのに。吹き出すなんて」 「すまない」 「まぁ、ぶっちゃけると、そんなに一生懸命考えてもいないです」 頭の中に自然と浮かんできた言葉なんです。 「久也さんと二人で幸せになろうって」 腕時計を大切そうに指先でなぞりながら松本は久也に笑いかけた。 『私と一緒になってくれるかい、千紘君』 「あの日、夕方の病室で久也さんに捧げられた言葉。一生の宝物です。この腕時計も同じくらい嬉しいです」 これまで誰かの誕生日を祝った経験は、ある、プレゼントを渡して喜ばれたことも久也は記憶していた。 でも、プレゼントを贈ってこんなにも胸がいっぱいになったのは初めてだった。 「まるで自分がプレゼントをもらった気分だ」 「久也さん、夏休みはどうします? どこに遊びに行きます?」 「……夏季休暇は二日連続とれはするが。夏休みだなんて、学生気分が抜けていないな」 「旅行行きましょう」 「旅行、か。そうだな……」 「ナイトプールにも行きましょう」 「勘弁してくれ」 文字盤上の秒針は二人のこれからの日々を改めて刻み始めていた。 end

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