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ある日の学校の帰り道。俺はブランシュネージュに向かっていた。ケーキのお礼を言いたかったのと、もう一度智駿さんに会いたいという気持ちがあったからだ。物腰柔らかで、それでいて人の喜ぶことをさりげなくこなしてしまう彼に、俺は早速憧れを抱いてしまった。智駿さんは今まで俺が出会ってきた人とは少し違うタイプの人だったから、その柔らかさが余計に際立って感じるのかもしれない。小中高とバスケをやっていて俺を囲む人たちはみんなギラギラと眩しい人たちばかりだった。あんな風に小さなケーキ屋さんで働いているような雰囲気の人はいなかった。
……で、会いたいってずっと思っていたのに。
「……え、マジか」
ブランシュネージュのシャッターに張ってある張り紙には、「水曜日の営業時間は十六時まで」と書いてある。本日、水曜日。時刻――十八時。予想外だった。せっかく途中の駅で降りてここまできたのに……とがっくり来てしまって、俺は思わずため息をつく。
「あれ……君、たしか」
「……え」
うなだれている俺に、誰かが声をかけてきた。ふと顔をあげれば……そこには、智駿さんが立っていた。今日は会えないとばかり思っていたから、俺はびっくりしてしまってもう一度「え」とまぬけな声を出してしまう。
「もしかして……ケーキを買いにきてくれたの?」
「あ、えっと……この前のお礼を言いたくて。あ、もちろんケーキも少し買おうかと!」
「お礼……? ああ、妹さん、喜んでくれた?」
「はい! あの……俺のこと、覚えているんですか?」
「もちろん、覚えているよ。元々このお店そんなにお客さんこないからっていうのもあるけど……君の妹さんのためにケーキを選んでいる姿、なんだかすごく印象に残っていて」
一度来ただけなのに、覚えていてくれたなんて――それだけで俺は嬉しくなって、うっかりにやけてしまう。だって、店員が客を覚えていることなんて、何度も足を運んでくるなんてことでもない限りほとんどない。俺だって、バイトをしていても客のことなんて一々覚えていないのに。憧れを抱いていた人に覚えてもらっていて、なんだかものすごく嬉しかったのだ。
「せっかく来てくれたのに……なんだかごめんね」
「いいえ……営業時間を確認していなかった俺が悪いので……」
「あ……そうだ、お詫びにうちにこない? 明日から発売の新作の試食でもして欲しいんだけど」
「……え?」
……なんだって?
これは超展開というやつだ。店員と客、ましてや会って二回目の関係なのに、家に誘われている。これが普段だったら、即「結構です」と言っていると思う。でも、なぜか智駿さんの誘いには全く唐突さとか違和感とか、そういうものを感じなかった。「お詫びにケーキの試食」という理由があるからかもしれないけれど……この誘いはひどく自然なものに感じられた。
「い、いきます……! ご迷惑じゃなければ……!」
「よかった、じゃあ、いこうか」
もっと智駿さんと話してみたい。そんな想いがふつふつと湧いてきて、俺は気付けば飛びつくように返事をしていた。そうすればにっこりと智駿さんが笑ってくれたから、なんだか、胸が高鳴った。
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