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 なかなかこないようで、約束の十八日はあっさりと訪れた。この日が楽しみで楽しみで、今週の俺はたぶん端から見ても上機嫌だったと思う。当日である今日なんて日中はずっとにやにやしていて、友達はこぞって「どうしたの?」なんて聞いてきた。  学校が終わると、俺はまっすぐに待ち合わせの駅まで向かった。学校が終わる時間が待ち合わせの時間ギリギリだったので、より道はしないで直接待ち合わせ場所に向かう。  この駅は中心の駅ではあるけれど、東京の駅のハチ公とかそんな目印のようなものは置いていなくて、皆改札の前で待ち合わせをしていた。周りを見渡せば、プレゼントのようなものを持ってすまして立っている大人の男性とか、髪の毛をしきりにいじりながらどことなく嬉しそうにスマホをみている女子高生とか、デートの待ち合わせをしているんだな、っていうのがまるわかりの人たちが立っている。俺は「デート」とは少し違うけれど……もし彼らと同じようにそわそわとしていたら、智駿さんにみられたときに恥ずかしいかな、と思って、なんでもないような顔をして立っていた。  約束の時間の、五分前。俺がぼんやりと駅の出入口の方をみたところで、智駿さんは現れた。智駿さんは車だからそっちから来る、というのを失念していた。改札から来ると勝手に思い込んでいた俺は、思いがけないところから現れた智駿さんに驚いて、思わず名前を呼んでしまう。 「智駿さん!」  遠目から見ただけでも、智駿さんがいつもと違うのがわかった。服装がシックで、髪の毛がきちんとセットされていて。どき、と心臓が跳ねて、その勢いのまま俺は小走りして彼のもとに近寄った。 「ち、智駿さん……こんにちは!」  開口一番俺は元気よく挨拶をする。そうすれば、智駿さんはなぜか、吹き出してしまった。やたら楽しそうに笑っている。なんで笑われているのかわからない俺は、ぽかんと口をあけて彼を見つめることしかできなかった。 「ご、ごめんね。梓乃くんが可愛すぎて」 「……え?」 「さっきまですまして立っていたのに、僕を見た瞬間すっごくにこにこ笑うんだもん」 「ば、ばかにしてますか!」 「ちがう、違うんだって、ごめん梓乃くん。本当に可愛くて。思わず抱きしめたくなっちゃった」 「へっ」  ははは、と笑って智駿さんは俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。なんだかかあっと体が熱くなってきて、俺はたまらず智駿さんから目を逸らした。「抱きしめたくなった」とか。わけわかんない、って思ったのに……ちょっと、抱きしめて欲しいなんて思っちゃって。 「いこう、梓乃くん。こっちだよ」 「……はい」  俺の口から出た言葉は、消えてしまいそうなくらいに弱々しかった。なんでこんなにドキドキしているんだろうって、自分でも不思議だった。

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