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 「ちょっと待っててね」、そう言われて布団にくるまって、俺は火照った体を冷ましていた。少しずつ体は落ち着いてくるけれど、さっきの自分の痴態を思い出すと恥ずかしくて、智駿さんと顔を合わせづらいなんて思い始めてきた。 「梓乃くん」 「わ、わああ!」  でも、智駿さんはそんな俺の心境なんていざしらず。いつもと変わらない声色で、声をかけてきた。ぱっと顔をあげれば、目の前に智駿さんが立っている。 「大丈夫?」 「は、はい……」 「朝ごはんね、冷凍してたやつだけど僕がつくったマフィンだよ」 「……智駿さんが?」  言われてテーブルに乗った皿を見てみれば、そこには美味しそうなマフィンとサラダ。湯気のたった紅茶が添えられていて、窓から差し込むきらきらとして朝日とぴったりだった。 「……っ」  きゅん、とした。パティシエの、智駿さん。エッチなこといっぱいしたような気がするけれど、こんなパティシエとしての智駿さんも俺は大好きなわけで。  ……智駿さん、好き。 「……んっ」  たまらず、布団から抜けだして。つま先立ちになって智駿さんにキスをした。そうしたら、智駿さんがきょとんとした顔をして……そして、ぎゅっと抱きしめてきた。 「梓乃くん。大好き」 「……俺も、です」  ぎゅーっ、って胸がしめつけられる。ときめきすぎて、おかしくなりそう。智駿さんの匂いがいっぱいに鼻に入り込んでくる安心する。頭のなかがとろとろになる。それがまた幸せだった。すき、智駿さん、すき……。  「食べよっか」って言われて、テーブルの前に、一緒に座る。 「このマフィンは……お店にはなかったですよね」 「うん。なんとなく自分用に作っていたやつだから」  紅茶を飲んで、サラダを食べながら、黄金色のマフィンを見つめる。智駿さんの、お店には出さないマフィン。これを食べられるのって、智駿さんと親しい人だけだよな、と思うと優越感を覚える。 「……」  なに、話したらいいんだろう。時間が経つにつれて、どんどん恥ずかしくなってくる。ほんとうに、さっきのエッチ(最後までしてないけど)は思い出すとかあーっと身体が火照ってくるくらいに、俺、やばかった。俺があんなに感じる身体だなんて、智駿さん知らなかっただろうな。 「……おいしい、です」  サラダを食べ終わって、マフィンをかじる。そうすると柔らかくて控えめな甘みがふわっと口の中に広がった。食感はふんわりとしっとりが混ざった、絶妙な感じ。お世辞抜きで美味しくて、一口食べればごちゃごちゃと考えていたことも吹っ飛んで「おいしい」が溢れてきた。 「嬉しいな」  俺が「おいしい」と言えば、智駿さんは嬉しそうに微笑んだ。そして、マフィンをかじる俺の肩を抱く。 「……っ⁉」 「気にしないで食べていていいよ」 「え、えっと……はい……」  智駿さんは俺の顔をじーっと見つめながら、頭を撫でてきた。ゆっくり、なでなでとされて、心臓が爆発しそうになる。 「そんなに見つめられたら……あの……食べづらいというか、」 「好きな人が僕のつくったものおいしそうに食べている表情見てるときゅんとしちゃって」 「……っ」  ああ、もう……。  ちび、とマフィンを少しかじる。じわっと甘みが広がった、けれど、智駿さんの微笑みの甘さには敵わない。ほんのちょっとしか口に含んでいないのに俺は延々とマフィンを噛み続けて、智駿さんに少しすり寄ってみる。胸がいっぱいでマフィンが飲み込めなくて、ずっとちびちびと食べているから、なかなかマフィンはなくならない。俺が食べている間にも、智駿さんは俺のこめかみにキスをしてきたり、愛おしげに髪を撫でてきたりと糖度が増していく。  やっと完食したときには、紅茶が冷めてしまっていた。存分に甘い甘い愛情を注がれた俺に、ストレートのアールグレイの、ほんのちょっとの苦味が、染み込んだ。

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